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第一章4話 桜と金次

  レオン率いるナストリーニ王国北と東を治めて、リーズ提督が属するウェンデス王国が中央、南部を治め、ヴィンセント帝国が東部を治める、通称西大陸。

  さらに西部、中央部をヴィンセント帝国が治め、北部をユハリーン王国が治め、東部にカルザール王国、オオエド自治区が治め、南部にマウンテーヤ王国が治める大陸を通称東大陸。

  東大陸のさらに東方、島国が多数存在する。  ここを、大陸の人達は卑賎諸国と呼ぶ。

  卑賎とは、日本語に馴染みのある方なら字を見たら、あまりいい意味を持つ字でないことはわかると思えるが、あえて説明すると、両方の字はいやしむの字であり、それを相乗させている。

  かといって、卑賎諸国に住む人々はそう自称はしていない。

  漢字圏内ではあるが(ちなみにこの世界に前漢帝国や後漢帝国は実在してません。  漢民族がいるわけではありません。  ですが、他の呼称にしてしまうと作者自身ですら混乱しそうなので、漢字という名称を使わせて頂きます。  ご了承くださいませ)、民族の名称を国号にしている。 卑賎とは、大陸人が付けた俗称である。


  さらに卑賎諸国を東に行くと、倭と呼ばれる島国がある。

  文字こそ漢字圏内であるが、大陸とも卑賎諸国とも文化の違う地区。


  ここから、物語は始まる。



  ある山奥の神社に生えている大木の木陰でウトウトとしている袴姿の少女がいた。

  手には松葉ぼうきを持っているが、掃除をしているわけではなく、ただぼんやりとしているうちにだんだん夢うつつになっていた。


「姫、姫……」


  そんな少女に呆れた袴姿の少年が、ユサユサと少女の身体ん揺すり起こそうとしていた。

  少女は不機嫌そうに目を開けた。


「なんだ、金次か……」


「おはようございます、姫」


「おはよう」


  姫と呼ばれた少女は目を擦り、ぐっと伸びをした。


「なんで起こしたの、金次?」


「掃除の途中で寝てしまった姫を起こしただけですよ」


「気持ちよく寝てるんだから、このまま寝かせてあげるのが優しさだと思うな」


「御館様に怒られるのは私ですが?」


「あのじじいがわざわざこんな山奥まで来る事ないって。  金次は心配しすぎ」


「仮にも御館様は姫の父君でありますので、じじいなどとお呼びするのは良くないと思いますが」


「金次は細かすぎるよ……。  どうせ居もしないんだから気を使う事ないって」


「姫が存命あそばされるのも、御館様の特別な御配慮でございますよ?  言ってしまえば命の恩人。  その恩人を捕まえてじじいはいただけません」


「私は恩人とか思っていないから」


「なんて罰当たりな」


「だってさ、双子が産まれた場合って通例では後に産まれた方を殺すのが普通じゃん。  先に産まれた私が島流しとか納得いかないんだけど……」


「それは普通そうですがね」


  金次はため息をついて言った。


「ですが、景寅様は男子。  姫は女子でございます。  家を継ぐのは昔から男と相場が決まっておりますゆえ」


「誰が決めたのよ?」


「昔の人でございます」


「でも私、景寅より武術もできるし、馬術もできるんだけど」


「景寅様はその代わり、学問に秀でていらっしゃいます。  そもそも姫は姫様らしく、武術だの馬術だのにうつつを抜かさないで華だの琴だのしていればいいでしょうに」


  この倭という国は、双子を忌み嫌う風習がある。  双子は家に災厄を呼ぶ象徴という迷信がはびこっていた。

  もし双子が生を受けたならば、後に生まれし児を殺す。  それが常識であり、昔からの伝統であった。

  そんな中で、永生家頭首景清の子供も双子であった。  当然のように後から産まれた子を殺そうとした時、後から産まれた子は、男子であった。

  景清にとって、それは待望の男子。 永生家を継ぐ御子である。  景清は、今までどういうわけか子に恵まれず、齢56になって始めて授かりし、子。  しかも、男子……。

  家の存続のため、他家から養子をとるのが通例。  しかし赤の他人に永生家を任せるくらいならば自分の実子に永生家を継がせたい……。

  そう思った景清は、先に産まれた女子を後に産まれた事にし、殺そうと考える。

  しかし、双子の母であり、景清の妻は言った。


「我欲のために、人道を捨て、鬼道を歩みますか?」


「………」


  妻のその一言によって、景清は女子の殺害を留まった。

  妻は安堵する。  掟や風習とはいえ、二人とも我が子。  そんなものにお腹を痛めた我が子を連れ去られてたまるか……。

  しかし、世間体というものがある。  永生家に仕える家臣の目もある。

  双子二人ともを城に置くわけにはいかなかった。

  生かすにしても、どちらかを日の目にあてるわけにはいかなかった。


「桜を隠すか……」


  桜とは、さきほど産まれた女子に付けられた名前。

  男子には寅千代と名付けた。


  妻は反対した。  しかし、こればかりはまかり通らなかった。


  こうして、桜姫は人知れず山奥の神社に閉じ込められる事となった。


「めでたしめでたし……」


「コラ、金次。  どこがめでたいのよ?  しかも目線はカメラですか」


  桜は憤慨していた。


「いや、軽く読者様にご説明をと思いまして」


  金次は桜姫をからかう様にへらへらと笑いながら言った。


「あんた、家臣の癖に大上段な態度をとるよね?」


「それこそまさに金次の悲劇ともいいましょうか……。  親が仕えている以上、子もとりあえずは親の仕えている家に就職……、いえ。  ご奉公しなければならないこの理不尽さ」


「こんなのが私のお目付け役なんて、私はなんて不幸なのかしら」


「不満なら解雇という手もありますよ?  そしたら私は自由……。  こんなにか弱い私を朝っぱらからたたき起こされて、剣の稽古の相手させたり、山登りの鍛錬に付き合わされなくてすむというまさに薔薇色の生活……」


「解雇するまえに不敬罪で処断するに決まってるじゃない?」


「処断?」


  桜はお腹に拳を当てて、くいっと横一文字にひく。


「鬼だ。  この悪魔め」


「自分の主君に対して、なんて口の聞き方ですか……」


「いつか下剋上してやる」


  桜姫は、鼻で笑って


「金次なんかに遅れを取るわけないじゃない」

「サラリと恐ろしい事を……」


「ところで金次」


「はい、なんでしょ?」


「お腹すかない?」


「すきましたな……。  中で御館様達も待たれていらっしゃる事ですし、さっさとご飯にしましょうか」


「………今、あんた何て言った?」


「はい?  ですから御館様達も待たれて……………。  あ!」


「……………」


「御館様達を待たせていたの忘れていた!」


  金次は頭を抱えた。


「金次……」


  桜姫は金次をジト目で見る。


「私が下す前にじじいが処断してくださるわね」


「だいたい、姫がいけないですよ!」


「なんでよ?」


「おとなしく境内を掃除していると思ったら眠りこけて……」


「朝早かったしねぇ……」


「ええ、存じておりますよ……。  私も付き合わされていましたからね!」


「そんな憎々しく言わない。  んで、じじいとだれが来てるの?」


「あ……、はい。 御館様と、奥方様、景寅様が来られています」


「は、母上も来ているの?」


  桜姫の顔が青ざめた。

  桜姫にとって、父より母の方が怖いのである。

  さすが桜姫の母と言わないばかりの豪快な方で、娘である桜姫には厳しく躾をする。


「たっぷり、しっぽりと絞られて来るがいいですよ?」


「私、いない事にならない?」


「永生の臣下たるもの、御館様、奥方様にどうして偽りを言えましょうか?」


「こんな時だけ忠臣ぶるのね……」


「まあ、早く行った方が身のためですよ?  私は姫の介抱の準備しておりますから」


「仮にも主君の危機に矢面に立とうという気概はないの?」


「男らしくないですぞ、姫」


「あたしゃ女だ」


  桜はそう言い残してよろよろと、母屋に向かって行った。

  金次もそれに続く。


「うぅ……、憂鬱……」


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