第一章38話 室町の戦い2
下間軍団は、足利御所南方に展開する不死騎兵団の一帯に攻撃を仕掛ける。 下間軍団は長刀で構成された、僧兵部隊であり、騎上にある騎手を次々に長槍で貫いていく。
不死騎団を指揮する源義経は電光石火で現れた下間軍団の僧兵部隊を睨みつける。
「く……。 騎兵の弱点、よく知ってる」
義経は苦虫を噛むような表情をするが、やがて口元がゆっくりと三日月のように禍々しく開く。
「が……、兵法の教科書通り。 我が部隊が人で構成された部隊なら、なるほど、理にかなった戦術。 だが現実は感情を排斥された不死の軍団。 恐慌は起こらず、ただ目的である我が部隊の混乱は成されぬ。 目論見をはずれた僧兵どもは……」
先ほどまで意気揚々と敵を貫き続けていた僧兵達の顔に疲労と、困惑の表情が浮かぶ。
貫いても貫いても、次々と自分たちの元に群がる敵。
長槍にとって圧倒的有利な兵種である騎馬の敵。
それが例え人外であろうともその図式は間違っていない。
騎兵の剣が長槍を持つ僧兵を斬りかかる前に、物干し竿くらいの長さの槍が騎手の体を貫く。
元々、長槍は騎兵を圧倒するのが目的に作られた武器。
馬に乗る騎手を貫き絶命させるのがこの武器の真骨頂なのである。
だが、いくら騎兵を撃退しても撃退しても恐れることなく群がってくる敵兵にやがて僧兵たちは恐怖する。
そう、数は圧倒的に敵が勝っている。 相手が人ならば、騎兵は長槍に貫かれる戦友を見て次は自分が貫かれると恐怖する。 その恐怖の感情は、だんだん自隊に広がり、隊は瓦解する。
しかし、敵には生への未練は皆無。
元々死んでいるのだから。
それに気づき始めた僧兵たちは、逆に自分たちが恐怖の感情に飲み込まれる。
その感情は貫く精度を落としていき、やがて圧倒的有利の感情は恐怖へと変わっていく。
僧兵を指揮する下間屯念も部下の僧兵の動揺を感じ取る。
突撃を仕掛けたとき、ある程度は想定はしていた。
敵は人外。
地侍のようにはいかないだろうとは……。
本願寺で僧官を勤める下間屯念は、魔王軍の軍勢についてはある程度一般の僧兵とは違い、この状況は予測できていた。
そもそも戦を本職とする侍の今河、斉藤、朝井、麻倉の侍達が敗れているのだ。 本来、戦が生業ではない僧兵ではどう足掻いてもこうなるのは解かっている。 だが、敢えて突撃を僧兵に命じた。
敵の注意を、自分らに向ける為!
「下間隊、室町御所南方に展開する騎兵隊に攻撃を仕掛けました」
孫一はゆっくりと軍配を縦に振る。
「第一射、用意!!」
雑賀衆自慢の鉄砲隊は孫一の掛け声に合わせ、銃口を敵に向ける。
「撃て!!」
パパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパ
孫一の合図と共に、一斉に鉄砲が火を噴く。
義経軍団に降り注ぐ鉛の雨。
死者は鉛の弾に貫かれ、動かなくなる。
そして鉄砲の音を合図に硬く閉ざされていた室町御所の城門が開く。
細川遊斎が、姿を現した。
「名誉ある足利の御家人衆よ! 今こそ大邪を討つ時だ! 出陣! 出陣! 人が邪に遅れるのはあってはならぬ事! 今こそ侍の本懐を見せしめる絶好の好機ぞ!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
足利の侍たちは一斉に雄たけびを上げ、不死騎兵に突撃する。
それを見た先ほどまで恐怖の感情に支配されていた僧兵たちも奮い立つ。
下間屯念はこれを待っていたのである。
「行くぞ! 本願寺の名を轟かせ! この戦場を支配するのは本願寺だ!」
僧兵たちはその激に答えるべく、再び敵を貫く。
さらに御所からは弓隊による矢の雨。
数を有する不死騎兵であっても、勢いと流れをつかんだ敵軍に次々と討ち取られていった。
「そこにいるのは細川の末裔か?」
低く濁った声は戦場で獅子奮迅に戦う遊斎の耳にも届いた。
声のほうを向くとそこには一人の武者が立っていた。
「いかにも、我こそは足利家家老、細川遊斎なり!」
「やはり細川の末裔か……。 そなたの先祖らの行った蛮行をワシは忘れぬ。 我が恨み、晴らす時来たり!」
武者がそう言い放つと、僧兵らによって貫かれ動かなくなった敵が。
雑賀衆によって撃ち貫かれ動かなくなった敵が。
足利軍の突撃により動かなくなっていった敵が。
カチカチカチカチカチカチ
骨が歓喜に打ち震えているような音が一斉に戦場に響き渡る。
カチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチ
カチカチカチカチカチカチ
骨の音が大合唱を奏でるように戦場をその音一色で支配する。
やがて、この不気味な音が止むと同時に、動かなくなっていた骸が一斉に動き出す。
「な!?」
遊斎は目の前で起きている事象に目を疑う。
認めるわけにはいかない。
認めてしまうと、勝ち目が無いことを認めてしまうのと同意。
倒しても倒しても起き上がってくる敵は、永遠と起き上がってくる。
それはすなわち、今あるどんな手段を講じても、起き上がってくるという事実だった。
遊斎が。
孫一が。
屯念が。
その場にいる全ての人間が、その事実を知った。
後は魔王軍の流れであった。
細川遊斎が、下間屯念が、討ち死にした。
絶望下に置ける状態で、足利軍も、本願寺軍も共に大将を失った。
大将を討ち取られた軍団は蜘蛛の子を散らすように、我先に逃げ出すが、見逃してくれるほど魔王軍も甘くは無い。
次々と魔王軍の兵士に討ち取られていく。
高台に陣を構えていた孫一はその光景を見ながら呟く。
「この戦、負けたな……」
孫一はふっと笑う。
「銀太とかいったか、あのガキ。 神子様を頼んだぜ」
孫一も、戦死した。
本願寺・足利連合は壊滅状態にあった。
後陣に控えていた本願寺京如軍団はその様を見ていた。
「リ、リッケル! 敵がこっちにくるぞ!?」
うろたえる本願寺京如は参謀として従軍しているリッケルに問い詰める。
「大丈夫です。 我々にお任せを」
リッケルの背後に控えていた男が、銀色の筒を取り出す。
「そ、それは?」
「本願寺が最強の切り札。 異世界最強の武器ですよって」
リッケルはニヤニヤ笑いながら、銀色の筒を持つ男に言う。
「本国の発射許可は戴いている。 遠慮なく焼き潰せ」
「は!」
発射許可をリッケルが出すと同時に、男は銀色の筒の引き金を引く。
銀色の筒から白い炎が、敵と室町御所目掛けて飛んでいく。
「さあ、始まる。 地獄のショウタイムが」
カ!!
激しい閃光。
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
鼓膜を破る爆発音。
そして爆心地から上がるきのこ雲。
爆発の衝撃風。
一瞬で、何もかも。
何もかもを灰にした。