第一章37話 室町の戦い1
朝井、麻倉が魔王軍に攻められ、滅亡した。
残る畿内の勢力は足利幕府と、本願寺だけとなった。
「法主! 魔王軍、室町御所に向かって進軍中との事です!」
顕如が岩山本願寺の境内で鯉に餌を与えていると、孫一が走ってやってきて顕如に伝えた。
「……そうですか」
顕如は目を瞑る。
思えば、銀太を召喚して以降、やることなすこと裏目に出ていた。
銀太を勇者にし、魔王に当たらせようとしたが、銀太が猛烈に反抗し、失敗した。
その銀太を処断しようとしたら、どの様な手段を取ったのか知らないがいつの間にか牢より脱走していた。
本願寺最大の切り札であった神子の山県遥は上杉に吸収されてしまった。
室町幕府を支持する本願寺としては、関東管領である上杉を糾弾するわけにはいかず、山県遥を諦めるしかなかったのだ。
「法主! いかが致しますか?」
「…………室町御所を陥落させるわけにはいきません。 援軍を出します」
「編成は如何致しましょう?」
「……こちらには向かってきてはおりませんか?」
「今のところそのような報告は受けておりません……」
「3万出しましょう」
「3万!? 本願寺総兵力の半分も投入するのですか!?」
「負けるわけにはいかないのです。 負けるわけには……」
「分かりました。 手配致します」
孫一は一礼し立ち去っていく。
「……………リッケル殿」
「はい、法主。 お呼びですか?」
「あれを使う時が来ました……」
「!」
リッケルは笑いながら言う。
「ついにあれを使いますか……。 準備させましょう」
「宜しくお願いします」
本願寺軍編成。
雑賀鉄砲軍団長、雑賀孫一。 鶴翼の陣。
第一隊、雑賀孫一。 鉄砲隊2000。
第二隊、鈴木重慶。 鉄砲隊2000。
第三隊、津田三條。 騎馬鉄砲隊1000。
下間屯念軍団長、下間屯念。 鋒矢の陣。
第一隊、下間屯念。 僧兵4000。
第二隊、下間鎮念。 僧兵4000。
第三隊、下間漢念。 僧兵4000。
第四隊、下間本念。 僧兵4000。
本願寺京如軍団長、本願寺京如。 魚鱗の陣。
第一隊、本願寺京如。 僧兵4000。
第二隊、本願寺遊如。 僧兵3000。
第三隊、リッケル。 歩兵2000。
総勢3万の兵力が岩山本願寺を出発した。
一方、室町御所は魔王軍に囲まれ、猛攻を受けていた。
その中にあって、将軍義昭はただオロオロするだけで実際の指揮は将軍の側近である細川遊斎がとっていた。
「ついに魔王は室町御所まで押し寄せてきたか……。 いいか、我々は将軍近衛として絶対に負けるわけにはいかない……。 耐えろ、耐え抜け! 今、将軍様が本願寺や毛利、上杉、竹多に檄文を送っている。 必ずや援軍は来る!」
守兵を鼓舞し、士気を上げる遊斎。 しかし、援軍の要請を行おうにも、伝令は誰も戻らず、それぞれの家に援軍の要請が届いているのかも怪しかった。
(……本願寺は室町御所の異変に気づいてくれるだろう。 問題は領国の遠い国々だな。 本願寺が気を回して呼びかけてくれればいいのだが、奴らは所詮坊主。 期待は出来ぬ……)
遊斎は考えを巡らすが、これといった打開策が思いつかない。
今、室町御所を攻めかかっているのは、死者の骸。 骸骨のみのものもいれば、腐った肉体がそのまま動いているのもいる。
そしてその後陣には、魔王の旗印が見える。
魔王、自らが室町御所攻めに加担しているのだ。
(終わらせてなるものか……。 室町幕府を俺の目の黒いうちは終わらせてなるものか!!)
「遊斎様」
吉岡清十郎が遊斎に声をかけた。
「先ほど孫一から連絡が来ました。 本願寺が3万の兵をこちらに向けて進軍しているようです」
「連絡? この囲みの中からどうやって?」
吉岡清十郎は肩に止まっている鳩を見せる。
「鳩……。 そうか、伝書鳩か。 その鳩、上杉の春日山。……いや、毛利の郡山まで飛ぶか?」
「いえ、距離がありすぎます。 無理でしょう」
「………」
朝井、麻倉が滅ぶのは早すぎた……。
足利が援軍を出す前より先に滅亡の報が届いたのである。
足利としては急にのど元に刃物を突きつけられたような、そんな状況だった。
「本願寺が3万出してくれるだけでもマシか」
「それで、孫一は本願寺が魔王軍に後から攻撃を仕掛けけるのでそれを合図に討って出てほしいとの事です」
「挟撃か。 確かにこのまま篭城していてもいつか室町御所は落ちる。 よし、本願寺軍が背後から攻撃を開始次第、討って出よう」
「了解しました。 その旨を孫一に送ります」
「よし、各員、出撃がいつでも出来るように準備を怠るな!」
「は!!」
一方、魔王軍陣営……。
「天下の足利が篭城とはね……」
ニタニタと笑いながら室町御所を見る。 足元には遊斎が各大名に送った檄文を持つ伝令の兵が横たわっていた。
「外と内から連絡を取り合い我が軍を挟撃……ね。 足利一の切れ者、細川遊斎も我が織田軍の前にはこの程度の戦略しか弾き出せない模様ですね、大殿」
「蘭……、努々油断することないよう……、気を引き締めよ」
「そうですね。 仮にも足利将軍は倭国侍の総大将」
「ふん、総大将とはいえ、それは義昭の祖先の偉業。 その祖先は死に、あそこにいるのは無能の集まり……。 ふふふふふふ、面白いことを考えた」
「え?」
「義昭には祖先と戦ってもらおう。 ふふふふふふふふふ」
信長は指をパチっと鳴らすと目の前にすぅっと二つの骸が出てきた。
「蘭、こやつらはだれだかわかるか?」
「いえ」
「室町幕府の創始者、足利尊氏。 そして横にいるのは九郎判官源義経」
「!」
「侍なら誰でも知っている侍どもの偉人。 この二つの骸ども相手に如何に戦うか、楽しみだな」
「すぐ出撃してよろしいか?」
義経は信長に聞く。
「うむ、好きにするがよい」
「御意」
「拙者も行きましょう。 久しぶりの現世、久しぶりの血肉、久しぶりの戦、拙者も心躍ります」
「左様か……。 では主も行ってもらおう」
尊氏も一礼し出て行った。
「大殿、あれらは本物ですか?」
蘭丸は先ほどの男たちを見送った後、感じた疑問をそのまま信長にぶつけた。
信長はニタリと笑う。
「奴らは成仏出来なかった為、現の世界に囚われておった。 そこでワシが奴らに肉体を与えたのだ」
「あれだけの偉人が成仏出来なかったとは、摩訶不思議ですね」
「心残りのある魂は現に残りやすい。 奴らは侍どもの英雄であるが故の心残りがあったのだろう。 長く現に残っておったわ」
「義経公の未練は解かるのですが、尊氏公の未練が検討がつきませんね」
「義経の未練は、兄に逆賊の汚名を着せられての無念なのは想像に容易かろう。 実際その心残りが現に留まった。 それに比べ尊氏は史実では背中に出来物ができて死去したとあるが、実は自らの一族による毒殺によっての死去であることを知るのは本人のみ」
「な!?」
「尊氏にとって今の足利幕府は自分の生涯を絶った怨敵にすぎん」
「………それは初耳でした」
「人間とは権力を持ったら最後。 例え血縁があろうと関係は希薄となる。 くくくくく……。 人間とはこうも儚く、醜く、権力の権化であろう事か……。 元々、人とは群れを成す生物。 和を尊いと様々な宗教倫理で謳っているにも関わらず、権力という物を持てば疑心により、征服欲により、顕示欲により、こうも容易く和を瓦解させる。 滑稽とは思わぬか?」
「それが人の限界でありましょう。 我々は等しく強者に従属します。 その観念こそが我らの勝機であります」
信長と蘭丸はニヤリと笑っていた。
一方、雑賀軍団本陣。
「勝敗は全て鉄砲にある。 この戦、勝つも負けるも我ら鉄砲隊にかかっている。 敵は魔性とはいえ、鉄砲の前では雑兵に過ぎぬ。 我ら雑賀衆の底力、見せ付けてやろうぞ」
おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
孫一の激に、軍団は割れんばかりの喝采をする。
次回更新は明日の23時までには多分アップします。