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第一章32話 戦うチカラ

 目が覚めると、シャベルを持った金次が目の前でまさに銀太を埋めようとしている最中だった。


「うぉい!?」


「うが……」


「うが……じゃないわ! 貴様、何か? 俺がチカラを入手するのは不可能だったととっとと決め付けてさっさと埋めちまおうって腹づもりだったのかい!?」


「ご明察痛み入ります」


「……てめぇ、まさかお嬢に俺が既に永生をでたなんてほざいていないだろうな?」


「残念ながら……」


「よほど死にたいらしいな……」


「で、どのチカラを入手してきたわけで?」


「…………」


 どんなチカラ……か。

 銀太は目を閉じる。

 その目に宿るこのチカラが、冥府で手に入れたチカラ……というわけだ。


「どうやら、ある程度の未来を見る目を手に入れたらしい。 それがこの旅の土産になった」


「未来を見る……。 それはかなり重宝しますね、これから戦争を行う永生……、いえ、上杉にとって……」


「戦での勝敗は戦況の流れを読める者がいるだけで大きく変わってくる。 この目さえあれば、魔王はともかく魔王軍に引けを取ることは無い」


「さすが銀太殿……。 永生家家老として、あなたを歓迎します……」



 そして、場所は変わって岐阜城。


「上杉憲政が、関東管領職を永生景虎に譲るか……。 永生は益々力をつけるであろうな」


 柴田勝家は、織田重臣会議で越後の情勢について語った。


「柴田殿、私の記憶が確かなら、永生景虎は影武者のはずだが?」


 と、羽柴秀吉。


「影武者? その情報はどこから?」


 と、明智光秀。


「私の手のものが、あの国に騒動の火種を巻きましてね。 まあ、向こうは影武者をすぐさま擁立したのでその火種はくすぶっておりますが……」


 秀吉はにやりと笑う。


「羽柴殿は何か考えがあるのですね?」


 と、丹羽長秀。


「あの国、決して一枚岩ではありますまい。 なあに、火種はある。 その火種に薪をくべれば、一気に山火事となりましょうぞ」


「内部から切り崩す……、というわけか」


「今までの脆弱な勢力とは違い、かの国は侮れぬ」


「ならば、この件は猿に任すとしよう。 で、本題は、信長様を裏切った朝井家の対処だが……」


 次の議事に移行した会議を後にした秀吉は、自分の配下の待つ城に入っていった。


「おかえりなさいませ、殿」


 竹中撫子、黒田桔梗の二軍師が秀吉に平伏した。

 この二人の軍師は、両方とも年端もいかない少女であるが、秀吉は二人の知略こそ和国一と睨み登用している。

 信長の天下ではなく、自分の天下を取るための頭脳であった。


「桔梗。 火種に薪をくべるぞ……」


「はい。 手はずは整っておりますわ」


「桔梗……」


 撫子は桔梗を見据えた。


「撫子?」


「桔梗も現場に行ったほうがいい。 でなきゃ失敗する」


「どういうこと?」


「永生に金色の獅子と銀色の竜が両立した。 今回の火種なんかあっさりと消されちゃうね」


「金色の獅子と銀色の竜?」


「特に銀色の方……。 私のつかんだ情報によると閻魔丸を使ったそうだし」


「閻魔丸とな!?」


「どんなチカラを得たか知らないけれど、障害になるのは明らかです。 今回の火種……、あの連中では多分、無理」


「ふぅむ。 ならば閻魔丸には閻魔丸に対抗するか」


 秀吉は手を叩く。


「お呼びでしょうか、殿」


「おう、お前らの力……使うときがきた」


「はい……。 殿のお力になれること、無上の喜びでございます」


「牡丹、主に任す。 永生の血筋を今度こそ絶やせ」


「わかりました、この加藤牡丹……。 命に代えましても」


「殿、牡丹ではなく、この福島瑠璃にお命じ下さい!」


「……いえ、この石田小梅に」


「いや、この蜂須賀百合こそ適役!」


「瑠璃、小梅、百合……。 おぬし等には朝井攻めで存分に活躍してもらう。 頼みにしておるぞ」


「……は」


 秀吉はほくそえむ。

 自分には有能な家臣団がいる。

 柴田勝家の家臣団は猪武者の集まり。

 明智光秀の家臣団は頭でっかちの集まり。

 丹羽長秀の家臣団は内政しかとりえの無い文官どもの集まり。


「どの家臣団も臨機応変という事を出来ぬ集団よ……。武は」


 文武共に揃った羽柴軍団は織田魔王軍でやはりナンバーワンの軍団だ。

 いずれあの魔王に成り代わり自分が天下を治める。


「ふわっはっはっはっはっはっは!!」


「ねえ、桔梗。 殿ってなんで自分の配下は女ばかりなの?」


「殿は自分では認めてないけどただのすけべオヤジだから。 職場を全て女の子で囲む事で至福を感じてるらしいし」


「だから殿は、家中で猿って言われるのね」


「……下半身直結とかよりはましじゃない?」


 軍師二人は自分らの上司のムッツリにため息をついた。

 羽柴秀吉の家臣団は一人も男がおらず、全て女だった。

 戦国の世で女が表舞台に立つというのは珍しいことではあるが……。

 これは端から見ると一見、秀吉のハーレム……。


「むほ……、むほほほほほほ」


「……ダメだ、このオヤジ。 相変わらず頭の中薔薇色だ」


 ぼそっと桔梗は呟いた。


「………兄上。 牡丹に細かい指示を出されては?」


 イッちゃってる秀吉を諌めるように、秀吉の妹、羽柴紅葉がコホンと咳払いした。


「おお、そうであったな。 桔梗、牡丹に細かい指示を」


「はい」



 そして場所は変わって春日山城。


「金次! あんたって人は!!」


 桜姫が金次に向かって怒鳴りつける。

 銀太の能力の開花→銀太の正式な仕官の話を桜に持っていく→どこでその力を手に入れたかという当然の疑問→銀太の閻魔丸のこと詳細な報告→今に至る。


「いや、姫! 落ち着いて!!」


「いくらなんでもそんな人の道に外れたことは許せません! あなた、遥の気持ちを考えたの!?」


 銀太が閻魔丸でチカラの入手に失敗し、死んだら遥は再びこの世界で天涯孤独となる。

 元々、親友であった遥のため、銀太の仕官は桜の中ではすでに決定項であった。

 なのに、この尚江金次という男は独断でとんでもない事をしていたのだった。


「桜姫、落ち着いて……」


「銀太殿!」


「は、はい……」


 銀太も桜に恫喝され、萎縮する。


「あなたもあなたです! 安易にへんてこなチカラを求めてなんでそんな危険な橋を渡ったのですか!」


「いや、お言葉ですが……、自分にはお嬢を守る力が全くありません。 ですので……」


「お黙りなさい……」


「は、はい」


「銀ちゃん……。 もう危ない真似はやめてよ、お願いだから」


「……わ、わかったよ」


「とりあえず……。 金次と銀太殿」


「は、はい」


「……なんでしょう?」


「二人とも……覚悟は出来てるよね?」


 桜は微笑んだ。

 目は笑っていないが……。


 二人が反省として命じられたのは……。


「反省しています。 もう二度と主君を差し置いて勝手なことはしません。 反省しています。 もう二度と主君を差し置いて勝手なことはしません……」


 上の文言を一万回書き取ることだった。


「なあ、金次?」


「はい、なんでしょう?」


 金次は疲れ果てた手と目をいくらか和らげるように手首を振り、まぶたをパシパシと上下させて答えた。


「いっつもあんな調子なのか、お前?」


「あははははは……。 今回は銀太殿も巻き込めたので怒りの矛先が分散されました。 いやはや、相変わらず怖い」


 と、苦笑いをしながら再び手を動かし始めた。


「お疲れ様、二人とも」


 と、遥がおにぎりとお茶を持って反省室(桜命名。 本来は春日山城主の倉庫部屋)に入ってきた。


「これは遥姫」


「お嬢か」


 二人は手を止め、遥が持ってきた差し入れに目が行く。


「差し入れです」


「いや、さすが遥殿。 どっかの鬼姫とは違いその優しい心。 金次は感激のあまり涙が……」


「誰が鬼姫よ?」


「ひ! い、いたのですか?」


 遥の後から桜の姿も現れた。


「まあ、いいか。 金次は私のこと心配してやってくれたことだから」


 桜はふっと微笑した。


「銀太も銀太で、遥を守るためにやったんでしょ? 全くこの男どもは後先考えずロクなことしないね。 私たちがしっかりと手綱をにぎらなきゃ、何しでかすかわかったもんじゃないね」


 桜は遥に同意を求めるが、遥はただ笑うのみだった。


「明日だね」


 明日、桜は関東管領職に就任する。

 ここから全て始まる。


「明日ですな……」


「……明日、確実に反旗の狼煙を上げる輩が出る」


 銀太は静かに呟いた。


「早速黄泉で手に入れてきた力の発動ですか?」


「ああ……。 その中に厄介なイレギュラーもいるな」


「厄介なイレギュラー?」


「桜姫の家族の命を奪った奴らがね」


「!?」


 桜は驚き、絶句する。

 金次は銀太に問いかける。


「御館様を討った下手人……。 それが見えるのですか?」


 銀太は頷く。


「どこの誰?」


「金次……、閻魔丸を服用した奴って結構いるんだな。 でなきゃ、説明がつかない」


「は?」


「なんて言えばいいんだろうな。 閻魔丸を知るまではこんな非常識な事、認める気にならなかったが……」


 銀太の目には、血に染まり、地面に伏している桜の姿が映っていた。

 いきなり何も無いところから、刃が出てきて、桜の首をかっきる。

 そんな絶望的なビジョンが、銀太に未来を告げた。


「だが、この未来は俺が変えるさ」


 銀太は静かに笑った。

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