第一章31話 銀の決意7
「おはようございます、良く眠れましたか?」
ティックスが浴衣を着て、ホテルで出された朝食を舌づつみを打ちながら言った。
「……あんた、どこの観光客だよ?」
ジト目でティックスを見る。
ティックスは気にした様子も無く
「銀太さん、課長みたいな物言いをしますね。 将来、あんなオヤジになっちゃいますよ?」
などとのた打ち回った。
「なんとなくあんたの課長の気苦労が分かったような気がするよ」
哀れ、中間管理職。
こんな新人類を代表した様な脳みそプルプルの部下を配属させられた日には、胃に穴が開くこと間違えないだろう。
「じゃあ、ご飯食べたら二次試験頑張りましょうね」
「ああ」
やがて、目的地の洞窟を目掛けて、二人は山道を歩いていた。
「これが二次試験かい……」
山にはトラップの数々。
軽いものなら、落とし穴や、鳩の大群による糞の爆撃。
酷いものは、ドラム缶がいきなり落ちてきたり、丸太が振り子のように銀太らを襲ってきたり……。
「……何がどうなったら失格だよ、この試験」
「……一次試験で貰った玉を紛失しちゃったらでしょ? この場合」
二人は罠に散々引っかかりへとへとになっていた。
肉体的ダメージより精神的ダメージのほうが大きいのだが……。
ふと気づくと、少年が立っていた。
「……よお、ひさしぶり」
「兄ちゃんこそ、元気そうで」
伊達正宗が立っていた。
「お前が二次試験官?」
「みたいなもんだよ。 兄ちゃんは姉ちゃんを守る力を貰いに着たんだよね。 ボクのように」
「ああ」
「……兄ちゃん、聞かせてくれないかな?」
「ん?」
「あんた、ほんとにあの兄ちゃんか?」
「へ?」
「兄ちゃんから、良く覚えている禍々しい力を感じる。 魔王と同質のその禍々しい妖気は……、一体なんなの?」
「…………」
「その力があるのなら、姉ちゃんを守ることは出来るんじゃない? それでも力を欲する?」
「貰えるものは全て貰う。 それが保科銀太だ」
「……」
正宗はにやっと笑った。
「あいかわらずふてぶてしい兄ちゃんだ。 行きなよ」
正宗は道を譲る。
「ええええええ!?」
その反応にティックスは驚く。
試験官が試験を放棄したのだ。
「兄ちゃん、姉ちゃんを頼んだよ。 もうボクにはこうするしか姉ちゃんを守る方法はないからね」
そういって、正宗は立ち去っていった。
やがて、第二試験、第三試験、第四試験はあっさりと拍子抜けするくらいに終わった。
「おめでとう、保科銀太さん。 では下界までお送り致しましょう」
「俺はどんなチカラを手に入れたのか?」
「下界に行けばおのずとわかります。 ここで語ってしまっても仕方の無いことです」
「そうか……。 世話になったな」
「いえいえ、あなたこそよくこの難関の試練を全て果たしました」
「難関? どこが……」
全くあっさりクリアしてしまったので何の感慨も無い。
「では、この円陣の中にお入りください。 あなたの魂魄と肉体を融合させる術を起こします」
「宜しく」
「では、行きますよ」
最終試験官、すなわち第四試験の試験官は目の前のボタンを押す。
すると、円陣が輝き出し、銀太の意識が深淵に飲み込まれていった。
「さて、送信終了っと。 さて、ティックスさん、地獄省庁まで帰りましょうか……」
しかし試験官の問いに反応する者はいなかった。
「あれ? ティックスさん?」
試験官はただ一人、ぽつんとその場にいるということに気づく。
「……ま、まさか?」
試験官は冷や汗を垂らして装置の端末をいじる。
「しまった……。 巻き込んでしまったんだ。 やばい、こんなことがばれたら俺は左遷だ!!」




