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第一章29話 銀の決意5

「おめでとうございます。 一次試験は無事通過したようですね。 それでは次の試験会場に行って頂きたいのですが……」


 トルーマンは部屋から出てきた銀太にいきなりそういって地図を渡す。


「ここが、地獄省庁となります。 保科さんがこれから向かっていただく場所は、この赤い丸を付けている所ですな。 私は他の仕事がありますのでご同行できませんが、ティックスさんが同行します。 それでは御武運をお祈りいたします」


 そういってトルーマンは一礼して去って行った。

 銀太は手渡された地図を見る。

 見る感じ一本道。

 目的地が山の中であることがなんとなくわかる。


「遠いのか? ここ」


 ティックスは地図を覗き込み、考え込む。


「そーですね。 まあ、歩いて1時間っていった所でしょうか」


「けっこうあるなぁ……」


「こんな所に三次試験官の人いるんですね……」


「………三次?」


「……あ」


 …………ということはつまり。

 ここに行くのが二次試験っていう訳なのか。

 いくらティックスのボケミスとはいえ、なんとなくズルをしているような気分になる。

 まあ、軽く推察するなら、このベッチャーから受け取った玉を三次試験官に手渡すことが二次試験の試練か。

 すなわち、この玉を三次試験官に手渡すまでに手放すと失格。

 第二試験の試験官とやらは、この玉を強奪するため、仕掛けてくる……。

 不意打ちされていたら危なかったかもな。 ティックスには感謝しないといけないな……。


「さて、行くか」


「あ、はい」


 銀太とティックスは地獄省庁を出た。

 そしておもむろに地図を開き、周囲の地形を確認する。


 ここ、地獄省庁を出て地図を開いたのには訳がある。

 まずは、地形の把握と道程の確認。

 そして、襲撃者に襲撃しやすい環境を与えること。

 

 自らを撒き餌に見立て、襲撃者の正体を晒し出させる。

 一見危険に見えるが、不確かな情報でいつ襲われるか分からないといった精神状態で進むより、自分は狙われているということを確信したほうが、精神衛生上、幾らか気は楽な者である。

 それに俺はティックスは本当にボケミスで俺に情報を与えてしまったのか、それとも不安に苛ませて精神的な揺さぶりをかけているのか判別はつかない。

 俺はそれを計れるほどこのティックスという少女を知らない。

 一見、扱いやすそうな天然ボケに見せかけた狸、とかもありえる話。

 油断はしないに越したことは無い。


「どうしたんですか、地図と睨めっこして」


 ティックスは不思議そうに聞いてくる。


「また地図を開くなんて隙だらけな事を山の中でするほど俺は馬鹿じゃないからね」


「…………」


 これだけ隙だらけにしていても襲ってくる気配はまるで無い。

 ………あまりにも不自然すぎて罠を張っていることに気づかれたか?


「ひょっとして、ここで襲われるのを警戒してませんか?」


 図星だった。


「図星でしたか……。 一応言っておきますが、ここは仮にも街中です。 一般人とかいるのに狙ってくるわけ無いじゃないですか」


「……はい?」


「銀太さん、ちなみに聞きますが、武芸の心得は?」


「あるわけがない」


「……じゃあ、落ちましたね」


「あっさりと見も蓋も無いことを言ってくれるね」


「いや、武芸の心得ひとつも無い人が、どうやって追っ手を撃退する気ですか?」


 全く持ってその通りだった。

 銀太は一応、柔道の心得程度なら学校で習う程度なら有しているが、そんな程度、心得とは言わない。

 それに、そんなものあるんならわざわざこんなところに来てまでチカラとやらを求めようとしない。


「かなり厳しいのな」


「いや、普通試練とか、下界で業を極めた人が更なるチカラを求めて来るのが一般的らしいんですが……、銀太さんみたいなのは恐らく初めてのケースでしょうね」


「そいつは光栄で」


「褒めてませんよ。 無謀な勇者への忠告です」


「無謀な勇者ねぇ……」


 無謀な勇者。

 まさに銀太が今置かれている状況をそのまま言葉にしたようなものだった。


「とりあえず、今日は宿を取りましょうか」


 ティックスはそういって、携帯電話を取り出して、どこかに電話をかけた。


「あ、もしもし。 課長ですか? ティックスです」


 電話越しに怒鳴り声が聞こえてくる。


「あ、いえ、忘れていたわけじゃ……。 定時連絡も業務のうちだとはきちんと認識しておりますです。 はい……。 え、途中報告? 一応一次試験には受かったようですが……。 あ、いえ、着任の連絡を忘れていたわけでは……。 いえ、あ、そうそう、失念していたわけです。 そうです、それです」


 忘れていたと、失念していたは同義語だと思いますが……。

 ティックスの電話を聞きながらそう思っていたら、案の定その突込みをされているようだった。


「いえ、それは言葉のあやです。 あはは、そんなわけないじゃないですか……。 はい、ごめんなさい。 覚悟しておきます……。 あ、それでですね。 私たちどこに泊まればいいんでしょうか?」


 やっと本題に入れたらしい。


「はぁ……、それってどこにあるんでしょう? いや、調べろと言われましても私、地獄の土地勘なんか全く……。 え、いえ。 調べさせていただきます」


 ティックスはため息を尽きながら携帯を切った。


「ああ、これはですね。携帯電話といって、遠方の人と会話できる機械なんですよ。 便利でしょ?」


 取り繕うかのようにティックスは語るが


「いや、知ってるよ。 冥府に携帯電話があることに驚いている」


「へ? 知ってる? 銀太さんの世界に携帯電話なんてないでしょ?」


「あのな、電車の中で話したろ? 俺は召喚されてこの世界にきたんだって」


「そ、そういえばそうですね。 さ、さあ、気を取り直して本日の宿を探しましょう」


「なんて名前の宿?」


「へ?」


「宿の名前は?」


「ヂゴクホテルですけど」


 銀太は再び地図を見て


「あれか」


 と、言って目的地を指す。


「そ、そうです。 あれですよ」


 そうして、銀太らはホテルにチェックインし、一夜を明かした。

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