第一章27話 銀の決意3
俺とティックスは汽車に乗り込み、地獄に向かっていた。
景色は延々と黒一色。
窓の意味、無いんじゃないのか……とか思ったが、よく考えれば地下鉄にも窓あるし、同じようなものかと思っていた。
ティックスは携帯ゲームのようなものに熱中し、正直暇である。
「なあ、ティックス」
「なんですか?」
携帯ゲームから目を離さずティックスは答える。
「試練って何するんだ?」
「…………さあ?」
「………は?」
「このケース私初めてですし、噂でしか知らないんですよね。 ま、既に死んでいるようなものですから死にはしないですよ」
「そりゃ、親切なご回答どうも。 話は変わるけど、何やってるの?」
「ゲームですよ。 ああ、ゲームとか言っても分からないか。 銀太さんの世界にはないですもんね」
「いや、知ってるけど」
「……へ? なんで知ってるんです?」
ティックスは珍獣を見るような顔をして銀太を見る。
「俺が本来いた世界では普通にあったからね」
「本来いた世界? どーゆーことです?」
「ああ、なんか顕如って坊主からあの世界に召喚されたんだよ」
「召喚!?」
「うん」
「…………そんな漫画みたいな話があるんですね。 で、世界を救ってくださいとか陳腐な台詞を言われて勇者みたいなことやってるんですか?」
「前半正解。 後半はずれ」
「……言われたわけですね。 で、後半はずれということは断ったということですか?」
「当たり前だろ……。 なんで見ず知らずのおっさんの頼みを無料で受諾できるよ?」
「まあ、極めてまともな反応ですね。 それからどーしたんです?」
「で、顕如のおっさんに殺されかけて、なんとか逃げたら一緒に飛ばされたお嬢がいた」
「お嬢?」
「俺の勤め先の社長の娘でさ。 7歳の」
「へー」
「ところがお嬢、なんか俺より10年前にあの世界に飛ばされたらしく、17になってやがった。 いや、びびった、びびった」
ティックスが何かを考え込んでいる様な仕草をする。
「ん? どした?」
「いえ、なんでもないですよ。 それで?」
「あ、うん……。 それで……」
銀太はこれまでの事をティックスに話した。
「尚江金次さんとかいう人に閻魔丸をもらって今に至る……。 と、いうことですね。 とりあえず、その方は死んだら問答無用で地獄に行けるように書類を整えておきますか」
ティックスは顔は笑っていても目が笑っていなかった。
本気だ……。
まあ、ティックスの今の苦労は全て金次から始まったようなものだし、当然といえば当然か……。
まさか金次の奴は、存命中に死神から憎まれてしまうという貴重な体験をしているというわけだ。
………いい気味だ。
ティックスがふと窓を見る。
「あ、もうすぐ地獄ですよ」
そういわれて銀太も窓を見る。
遠くに赤い光りのようなものがうっすらと見える。
「地獄……ね」




