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第一章23話 桜の決意

  金次の父、尚江実綱は室町会議の詳細を聞いて、黙りこんでしまった。


「満場一致だったんです。  あれをどうやって断れと?」


「……」


  渋い顔をしながら金次を見る実綱。

  実綱の脳裏にはこれからの桜を対外に出さずこの難局を乗り切るか、自問自答し、それでも結論に至らず、また一から自問自答を繰り返しているといった感じである。


  一方、永生の軍師と呼び名の高い宇佐見氏も、同様に考えあぐねていた。


  まさか本人欠席で拝命授与の儀式などできるわけもなく、拝命授与を行う事で公式の面々、すなわち10家のだれかしらが出席し、景虎を偽る桜を見破ってしまう危険性……。

  発覚による内部分裂……。

  危険すぎる要素が多すぎるのだ。


  一方、張本人たる桜は、皆がうんうん頭をひねらせている横でまったりと編み物に勤しんでいた。


「まあ、なるようになるんじゃない?」


  桜がポツリと呟く。


「相変わらずお気楽な……。  一歩間違えれば対外にも減算ですし、内部のよからぬ勢力が活性化してしまうんですよ……」


「でももう断れないんでしょ?」


「確かにその通りなんですが……」


「なら諦めるしかないでしょ。  第一こんなところで根つめて考えた所でいい案なんてでるわけないんだから」


「それを考え出すのが政なんです」


「どうせ出てくる案なんて、私が病気してるとか、私が景虎の振りをしてバレないように努めるしかないんでしょ?」


  結論からいうとそうなる。

  桜の言っている事しか今の所、案はないのだ。


「どうしたものかな……」


  実綱はポツリと呟いた。


「好機……と考えるのは私だけですかいな?」


「好機?」


  宇佐見はこの絶望下を好機と揶揄した。

  自ずと皆の視線が宇佐見に行く。


「左様……。  好機ですな」


「どこをどうやったら好機なんて言葉が出てくるのやら……」


  考えることが苦手な垣崎は鼻で笑いながら宇佐見を見る。


「裏切るやつはいずれ裏切ります……。  ならばそのような害虫を飼っておくより、駆除したほうが後々の永生のためになるかと……」


「…………つまり、叛意を煽る……と?」


「左様……」


「バカな……。  永生が半分に割れるのだぞ?」


  実綱は、裏切るであろう臣下を即座にはじき出し、彼らが保有する兵力を概算で永生の半分と読んでいた。


「割れますな……」


  軍師、宇佐見も当然そうなるであろうと読んでいる。


「当時、兵力が割れるデメリットは大きかったが今は状況が異なります」


「当時?」


「お忘れですか?  当時最大の懸念は内部の雑魚より竹多であったことを……。  そしてその竹多は今や仮初めとはいえ対織田同盟の友邦であることを……」


「あ……」


「まだ対織田同盟の国は織田と戦っていません……。  それに同盟は締結したばかり……。  織田と闘う前に私欲による内部分裂などという下策をとるほど竹多はバカではありません」


「なるほど……。  そうかんがえたら好機だね」


  桜は宇佐見の話を興味深く聞いていた。


「逆にいうなら今以上に整った環境が先にあるかと言いますと、それは無いと断言できます」


「なぜ無いと?」


「織田と戦い、勝った場合は、10家全てが盟友ではなく、再び敵となること……。  負けた際は、もはや永生は存在していないでしょうからね」


「……恐ろしい男だな、お前は……」


「誉め言葉として受け取っておきましょうて……」


 宇佐見はにやっと笑って、一同を一瞥した。


「宇佐見殿、ちょっと待ってください」


  宇佐見の提案に金次は顔をしかめて反論しだした。


「金次殿、不服でございますか?」


  宇佐見は平静な顔つきで金次の方を見る。


「ええ、不服ですね」


「姫を矢面に立たせるのは危険だ……、そう仰りたいのですな」


「お忘れですか?  景清様や景虎様がどのようにして亡くなったか……。  誰が手に掛けたかもわからぬ現状では、次は姫が危ない……。  君主を死地にさらせ……と?」


「この策の狙いは、下手人の確保をも含まれております。  ひいては先代らの敵討ちにもなるのですよ、金次殿」


「他に穏便な策は思いつかないのですか……。  仮にも永生の軍師でしょうが」


「軍師だからこそ、最善手を進言したまでです。  それとも金次殿はこれに勝る策がおありで?」


「……………」


「姫様への忠義心は認めます……。  しかし忠義と過保護を履き違えはいけない。  桜姫様は、永生の象徴たる御方。  この程度の橋も渡れぬようではこの乱世の和国を生き抜く事はできますまいて……」


「しかし、姫にもしもの事があれば永生は断絶します」


「もしもを起こさないのが我々臣下の務めかと……」


「如何にしてもしもを起こさない気で?」


「だれだかわからない敵に対しては有効なる手段はとれないでしょうが……、私には幾ばくか当たりがついてるのですよ」


「当たり……ですって?  まさかその当たりとかいうのは……」


「御館様らを亡きものにした黒幕についてある程度の予想はついております」


「な、何者ですか、そいつは……」


「近年の動向を見る限り織田が一番臭いですがね……」


「織田?」


「しかしまだ確証は得ていませんし、もう一方に疑わしき勢力があるのも事実……。  織田だと穏便なんですがね」


「お、穏便?」


「左様……。  しかしもう一方ならば少々複雑なんですが」


「……本願寺か」


  実綱はポツリと漏らした。


「確証がないため糾弾は不可能です。  が、本願寺も本願寺で臭い」


「本願寺って、あの本願寺?」


  桜は宇佐見を見ながら問い詰める。


「可能性は零ではありませぬな」


「なんで?」


「……伊達と永生、共通点がないように見える二家には、共通点があるわけです」


「共通点?」


「神子神託の儀を反対したという共通点が……」


「なら決まりじゃない……。  敵は本願寺じゃないの」


「いえ、そう思わせるための伏線なのかもしれないのです。  我々が争って利するのは織田……。  それは本願寺が織田への警告を発していながら、味方になりうる国を害す利点がありません。  基本、永生も伊達も神子神託に反対はしていても魔王討伐までは反対しておりませんので」


「じゃあ、誰が虎千代を殺したの?」


「ですので、確証は得ていないと……」


「……ところで、オヤジはなんで神子神託に反対してたのよ……」


「表向きは、自国のもめ事を少女一人に背負わせるのは武門の恥……っていうところです」


「表向き?」


  桜が疑問がっているところに金次が口を挟んだ。


「姫、お忘れですか?  神子の候補に姫がいた事を……」


「…………ああ、あったね、そんな事……」


「御館様は、それが理由で猛反対したのですよ」


「は?  あの冷血漢が?  双子は忌みなとかいう理由で私を殺そうとしたあのオヤジが?」


「姫、あれは対外的にとらなければならなかった態度です。  それにお母堂様が止めるのをわかっていて取った偽りの態度……。  御館様は御館様なりに姫が可愛かったんですよ」


「金次……」


「はい?」


「私がそんな話信じるとでも思ってる?」


「まあ、表面上は冷たいように振る舞わなければならなかった……。  ですがこういっちゃなんですが、御館様はバカがつくくらいの親バカでしたよ」


「……」


「でなきゃ私を姫の査察役に据えるわけないでしょう……。  私はこうみえても永生家老職の時期党首、尚江金次ですよ……。  いってしまえば御館様が不在の際、城を守る代行者……。  そんな私が姫の査察役に就けられているんです」


「あ……の、オヤジが……」


  桜は様々な衝撃の事実に口を閉口していた。

  桜にとって父はただの鬼。

  人を、永生という家名を護るために平気で切り捨てる冷血漢。

  それが親バカのオヤジ


  錯綜する感情が、桜の頭を駆け巡る……。


「ほんとうなの?」


「こんな場面で偽る必要がどこにありますか……」


「……………そう」


  桜は無言でうつむき、考え込む。

  そして数分で顔をあげた。


「ならば私は父の意志を引き継ぎましょう」


「え?」


  一同、キョトンとする。


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