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第一章14話 十年ぶりの再開

  階段を昇りきり、肩で息をしている銀太に孫一は言った。


「だらしないな、この程度で……。  山には慣れてないのか?」


  悔しいが、何も反論はできない。  体力には自信はあったのだが、その自信は見事に打ち砕かれた。


「階段は……慣れてないから……ね」


  息も切れ切れに、銀太は答えた。


「なっさけない……」


「め、面目ない……」


  孫一は先に見える朱色の鳥居を指さして


「あそこが神子様のお住まいだ。  あと少しだろ、がんばれ」


  銀太はその鳥居を見て目眩がした。


「う、うぉい……。  まだあんなにあんの?」


  鳥居は銀太の目には豆粒にしか見えないほど小さかった。  よく目を凝らしたら鳥居が見える。  かなり上のほうに……。


「きゅ、休憩しない?」


「却下だ……。  空を見ろ」


  言われて空をみると、どんよりとした雲が広がっていた。


「雨ふりそうだね」


「女の子の薄着が雨で透けるのはともかく、野郎の服が透けても嬉しくもないんでね。  降る前にいくぞ」


「それに関しては同意だな……」



  やがてやっとの想いで鳥居をくぐった銀太らは鳥居の先にある神社らしき境内に足を入れた。


「これはこれは雑賀様」


  巫女服を着た壮年の女性が声をかけてきた。


「神子様はおられるか?」


「神子様なら、朝早く出かけになりましたが……」


「出かけた!?  どこに?」


「さ、さあ……」


「護衛はいるようだが?」


「は、はあ……。  雑賀様からも神子様に言ってやってくだいませ……。  私らのことはちぃっとも聞いてくださいませんから」


「供も連れず、どこに?」


「昨日は躑躅館に行かれたとのことですので、本日は春日山あたりかと……」

「躑躅館!?  な、何をしに……。  そ、それに次は春日山だと!?」


「あ、あのさ……、孫一。  俺の記憶が確かならツツジヤカタって武田の本拠の名前じゃなかったっけ?  なんで本願寺の側にあんの?」


「いや、とりあえず後で説明するから黙っておいてくれ」


  孫一は頭をぼりぼりかいてため息をついた。


「ったく……。  神子様にはじっとするという言葉はないのかよ」


「ですから雑賀様からも神子様によ〜〜〜く、言い聞かせてくださいませ」


「おぬしらも大変だな……」


「こんな事なら瞬間転位の法術を教えになるんではなかったと先生も言っておられました。  全く神子様にも困ったものですよ」

  壮年の巫女がブツブツとミコサマとやらの不満を呟いている。

  ふと気付くと、壮年の巫女の背後に若い巫女姿の少女が立っていた。

  あんな所に人はいなかったはずだ。  まばたきをした瞬間に人がいきなり現れたのだった。


「たっだいま〜、ヨネさん」


「み、神子様!」


  ヨネと呼ばれた壮年の巫女は背後の声に驚いた。


「どこに行ってらっしゃっていたんですか!  ヨネを心配させないでください!」


「ごめんごめん……。  桜ちゃんに会いに春日山にいってたんだよ。  そうだ、聞いてよ、桜ちゃんさ……」


「おだまりなさいませ、神子様!  雑賀様が見えております」


「孫いっちゃんが?」


「神子様!  その馴れ馴れしい呼び方をやめなさいと何度申したら……」


「ヨネ、俺は構わんが……」


  その問答に孫一は口を挟む。


「あ、孫いっちゃん、お久しぶり〜」


  ミコサマとやらは孫一に手を振った後、俺を見る。


「…………え?」


  俺を見た瞬間、ミコサマはなぜか固まった。

  俺はミコサマをマジマジと見る。

  どこかで見たような気がする。  どこだったか……。

  ミコサマは俺の方に駆け寄って来た。


「………夢?  私、夢見てるの?」


「は?」


  いきなりミコサマは俺に抱き着いてきた。


「な!?」


「銀ちゃん!」


「はい?」


「銀ちゃんなの!?」


  いきなり抱き着かれたら誰だって困惑すると思う。  しかも初めて会った女の子に。


  ん?

  初めて?


  今、この娘……。  俺の事、銀ちゃんって言わなかったか?

  俺を銀ちゃんって呼ぶのはこれまでこの方ただ一人……。

  だが、まさか……。


「私だよ、山県遥だよ!」


「な……、お、お嬢!?」


  今、抱き着いてきているこの少女がお嬢?

  そ、そんなバカな……。

  だってお嬢は、小さい子供のはず……。


  そう思っていた銀太の脳裏に孫一のあの台詞がリピートした……。


  10年前召喚した……。


  10年……。

  ていうことは……、7歳のお嬢は10年前に召喚されて、今ここにいるのは……。

  10年歳を重ねたお嬢……。


「お嬢なのか!?」


「やっぱり銀ちゃんなんだ!」


  お嬢は目を潤ませ、涙が零れていた。


「会いたかったよぉ……。  銀ちゃん……」



「銀太、神子様の知り合い……なのか?」


「え?  ……ああ、どうもそうみたいだ」


「ふむ……。  妙な偶然があるものだな」


  孫一はそう言った。


「銀ちゃんも、顕如さんに呼び出されたの?」


「あ、ああ……。  拉致られたね」


「でも、顕如さん……。  銀ちゃん、死んでいるって言われたよ。  なんで生きてるの?」


「死んでいる?  俺が?」


「神子様、今……なんとおっしゃいましたか?」


  孫一がいきなり会話に割って入ってきた。


「だって顕如さん、銀ちゃん死んだって言ったじゃない」


「………銀太が、神子様の言っていたもう一人の方……?」


  孫一は顔面蒼白になっていた。


「どうしたの、孫いっちゃん?」


「神子様、そいつから離れろ!」


  孫一は俺に火繩銃を向けた。


「な……」


「孫いっちゃん!?」


「銀太……。  てめえ、魔王の刺客だな!」


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