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第一章12話 雑賀孫一

  牢獄の中で銀太は、現状を把握するため考え事をしていた。

  まずは顕如が銀太に対して言っていた勇者という銀太の世界ではゲームの中で活躍するユーザーの分身たる存在。


「信長が魔王と恐れられているのは比叡山焼き打ちや伊賀天正の乱とかで非道を働いたから第六魔王と恐れられているだけで、それぞれには信長の確固たる信念があってやった事だしね……。  わざわざ異世界から人やあんなものを持ち出す顕如の方がやってることは魔王じゃないか」


  さすがに戦術核を持ち出して来た顕如には、不快しか思えない。

  顕如……。

  浄土●宗の総本山たる立場にいながら、あんな殺戮兵器を持ち出す事に躊躇もないないなんてなんて腐れた坊主だ。

  そもそも、召喚系のネタなら色んなゲームや小説、アニメであったがたいてい召喚されるのは人間のみでまさか核兵器も召喚してしまうとか無茶苦茶すぎる。

  そんなもんを召喚するなら俺はいらねえじゃないか……。

  引き金一つ引くだけでなにもかも終わるよ、全く。

  現代において、核兵器を保有する国はヘドがでるほどある。

  核戦争を防ぐ抑止力なんて持つことの正当性を示してはいるが、使った後に起こりうる悲劇を真に理解出来ていないからこそ平気な顔で持てる。

  さて、話が反れた。

  また気になる事を顕如は言っていた。

  異世界……。

  岩山本願寺……。

  比叡山焼き打ちや伊賀天正の乱に関して、興味を示さない所……。


  つまりまだ、比叡山焼き打ちや伊賀天正の乱は発生していないということ……。

  そこに矛盾が生まれる。


  信長が魔王と呼ばれるようになるのは近畿に入ってからだ。

  桶狭間や斉藤攻め近辺ではまだ信長に対する呼称は尾張のウツケのはず。

  浅井・朝倉との姉川の戦いとか発生前は魔王としての呼び声はなかったのではないか……。


  しかし、顕如は本願寺の呼称を石山本願寺ではなく岩山本願寺と言った。

  岩山本願寺とかいう呼び方は初めて聞く。

  ここはひょっとしたら戦国時代ではないのかもしれない。

  そもそも浄土●宗にそんな怪しげな召喚とかいう秘技があるのかと考えると、おおいに疑問だ。

  しかし信長がいて、魔王と呼称されて、本願寺顕如が本願寺で法主を勤めている。

  確かに俺の知る戦国時代ではあるが、岩山本願寺っていうのがひっかかる……。

  パラレルワールド説。

  これが1番濃厚か?

  しかしパラレルワールドは並行世界であって、IFの世界。

  誰かが選択肢を選び、選ばれなかった世界がパラレルワールドである。

  そもそも石山本願寺の石山は、地名からきているはずだった気がする。


  だからどんなIFがあろうが石山が岩山とか安易すぎる名前になることはない。


「やめたやめた……。  憶測の域を巡らしても正解がでるわけないし……。  それに考えるなんて俺の性にあわねえや」


  寝て起きたらまだここにいた。

  夢じゃないということだけ分かっただけ十分な前進だ。


  しかし……。


「俺、殺されるみたいだな」


  顕如は言った。  飼っておくのももったいない。  黄泉路へ旅だっていただこうと。


「あああ、俺の馬鹿!  なんだって挑発しちゃったんだ?  大人しくハイハイ言ってりゃ死なずにすんだものを」


  だが、あそこでハイハイ言ってりゃ勇者に祭り上げられて信長暗殺の実行犯にさせられるだけだしな……。

  俺じゃなくて、そういった稼業やってる奴召喚すりゃ話ははやいのに。

  俺は一般人。

  たんなる大工だぞ?

  こういう召喚されちゃうのは俺みたいな大人じゃなくて、非現実的な事が大好きな学生連中を召喚しちゃえばいいものを……。

  社会人召喚して、お前は勇者だ、魔王倒せとか言われて、はいわかりましたとか二つ返事する奴がいるか!

  他の世界が魔王に蹂躙されてようが、自分の無断欠勤による解雇のほうが怖いわ!

  とりあえず、有給休暇って事にはならないかな……。

  でも、他の会社はどうかしらんが、うちの会社は葬式とかでもないかぎり事前に一ヶ月前申告が当たり前だし、連絡も寄越さないで音信不通とか、解雇されても文句いえないし……。


「って、死刑待ちの奴が考える思考じゃないな」


  ったく………。

  俺はお嬢と遊園地に行っただけなのに、なんでこんな事に巻き込まれたんだか……。


  ん?

  お嬢?


「って、お嬢はどこだよ!?」


  混乱しすぎて忘れていた。

  あの時、観覧車の外が急に紫色になって、お嬢が消えて……。


「消えて!?」


  そうだ……。

  消えたんだ。

  んじゃ、その後俺もお嬢と同じように……。


「じゃあこの世界にお嬢がいる!?」


  ちょっと考えればわかったことじゃないか。

  同じ目にあってるんだ、お嬢は……。

  まさか顕如の奴、お嬢にも勇者がどうだかとかいって暗殺者に仕立てあげる気じゃ?


「まさかいくらなんでもあんな年端もいかない子供に……」


  いや。

  あのイカレタ坊主なら否定できない。


「大人しく処刑されるのを待ってる場合じゃないぞ、こりゃ」


  と、言った所で今いる場所は牢獄。

  簡単に逃げれるなら牢獄とは言わない。

  早速、万事休す……。


「よお」


「は?」


  気付くと牢獄の外に一人の男が立っていた。


「お前、名前は?」


「保科銀太」


「銀太ね……。  俺は雑賀孫一。  本願寺に仕える雑賀衆頭目だよ」


「雑賀……孫一?  あんたが?」


「それよ」


「は?」


「あんた、法主の皇臨の儀で異世界から来てる人間のはずだが、法主の事を知っているようだったし、なにより魔王の姓名すら当てやがった……。  どんなカラクリだよ?」


「どんなって言われてもね。  なんて説明していいやら」


「ふむ……。  ちょいと聞きたいんだがね」


「何を?」


「本願寺がどうなるかだよ。  そんな事を法主に言っていたよな?」


「ああ……。  本願寺ね。  確かここで10年くらい篭城するけど朝廷の介入によってこの城明け渡す事になるはずだけど」


「お上からか……。  だが、そのお上が無ければどうなる?」


「は?」


「銀太、お前の話だと本願寺はお上の介入によって本願寺を明け渡すと言ったが、そのお上がいなけりゃどうなる?」


「それは知らない。  あ、いや……」


「ん?」


「俺の世界の誰かが立てた仮説本にそんな事書いてあったな」


「仮説本?  学者様かい?」


「いや、そんな大層なもんじゃないよ。  ゴシップ臭いし」


「ん?」


「いや、こっちの話。  その本によれば、本願寺は先に朝廷を懐柔してしまい、織田の朝廷工作を妨害してしまうんだ。  で、石山本願寺そのものを諦めた信長のとった行動は……」


「行動は?」


「長期にわたる兵糧攻め」


「兵糧攻めだと?」


「織田にはその戦法が得意な奴がいるんだよ……。  徹底的に本願寺を封鎖しちまって飢餓地獄を味あわせる」


「ふむ……。  得意な奴とは?」


「羽柴秀吉……。  いや、まだ木下藤吉郎かな」


「………………織田に仕える武将って他には誰がいる?」


「は?」


「いいから答えろ」


「有名どころで、柴田勝家、前田利家、佐々成政、池田……」


「もう良い」


「え?」


「かなりこの世界の事を知り得ているな……。  不思議なもんだ」


「じゃあ、最後にお前は信長は勝手に自滅するとか言っていたな……。  確か本能寺がどうかとか」


「ああ、秀吉の毛利攻めの要請を受けた信長が京都の本願寺に宿泊していたら部下の明智光秀にいきなり攻められて死んだ」


「モウリ?」


「ん?」


「…………モウリというのは聞いた事ないが」



「尼子や大内を滅ぼして中国地方統一した毛利元就が築いた毛利帝国の毛利だよ」


「ああ、ケリ元就殿か。  お前んとこではモウリっていうんだな」


「ケリ?」


「髪の毛の毛に利潤の利で毛利。  確かにモウリとも読めるな」


「ケリ……。  なんだそりゃ」


「おもしろいな、お前の世界。  我々雑賀はなんと呼んでいる?」


「雑賀?  そのまんま、ぞうがってよんでるけど?」


  ※注意……銀太の読み方間違いです。  正式にはさいがと読みます。  突っ込んでも話進まないので気にしないでください。  ちなみに作者もそう勘違いしていた時期もありました。  雑賀ファンのみなさんごめんなさい(汗


「ふむ……。  面白いな、やはり殺すのはもったいない」


「はい?」


  そういうと孫一は牢獄の鍵を開ける。


「出な」


  銀太は言われるままに出た。


「俺らの城に案内してやるよ、雑賀の城にな」


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