1話 おめーの席ねえから
「うう、ここは…?」
魔法陣に呑み込まれたと思った次の瞬間、私達は真っ黒な空間にいた。
何を言っているのかわからないと思うが、私にもわからない。
生徒達も次々と身体を起こしては、周りの風景に驚愕の目を向けている。
…一部何故か狂喜しているのもいるが。
「…聞こえるか、異星の子らよ。」
不意に、空間に反響するような声が聞こえた。
生徒達はまだ戸惑っており、応答出来るような余裕はないようだ。ここは大人である私の出番だろう。
「聞こえていますよ。色々と質問したいことがありますが、まずはそちらから話をどうぞ。」
「…む?そなたは一体…召喚予定の30人の中にそなたのようなものはおらんかった筈じゃが…まあいい。此度、儂の管理する世界に他の世界にも影響を及ぼしかねない脅威が生まれた故、やむなくそなたらを地球から召喚させてもらった。何故自分たちが、と思っているじゃろうから説明しよう。儂の世界はいわゆる剣と魔法の世界での。待機中に満ちるマナは、魔力を持たぬ異世界人が来訪するとその身体に流れ込み、その人物の個性を踏まえた強力な異能力として発現するのじゃ。そして、異星の中で最も平均個性値の高かったそなたらが選ばれたというわけなのじゃよ。」
…ふむ。現実離れした話ではあるが、筋は通っている。ここはこの声を信じる他ないだろう。
「して、召喚にあたり儂は人間の住む大陸一の大国であるエルヴァ王国に30人の転生者が訪れると神託を下した。しかしどうやら予期せぬ異分子が入り込んでしまったようじゃな。」
…生徒30名、担任の私を含め31人。どう考えてもその異分子というのは…
「理解しておるようじゃな。儂の声に初めに答えた男よ。そなたは本来召喚される予定ではなかった。魔法陣が少しばかり故障しておったようだな。残念ながら席は30人分しかない。そなたはこの世界のどこかに無作為で飛ばされることになる。災難だったが、許せ。」
ちょっと待て。勝手に召喚しておいてそれか?あまりにも自分勝手が過ぎるぞ。こんな奴に生徒達を任せられるとは思えん。
…しかし、代わりに生徒の誰かをそんな目に合わせる訳にもいかんだろう。ここは甘んじて受け入れるしかない。
幸いサバイバルの知識は最低限持っている。なんとか生き延びて、生徒達に発見してもらうとするか。
立ち上がり、放心状態で話を聞いていた生徒達に向き直り、語りかける。
「…聞きましたか。私は君達についていくことはできないようです。これからあなた達には数々の困難が待ち受けているでしょう。共に行けないことを悔しく思いますが、君達ならやっていける筈です。」
「っ、先生だけ置いていくなんてそんなこと出来るわけ…」
クラス委員長の真賀田君が声を荒げる。
「ありがとう、真賀田君。私はその言葉だけで十分です。さあ、そろそろですよ。」
「…俺、絶対先生のこと見つけるから、それまで生きてて下さい!約束です!」
「…ふむ。別れは済ませたかな?それでは早速飛ばさせてもらうぞ。」
謎の声が何やらブツブツと呟きだした。
「…我が導きの元に、汝らが道を照らさん!テレポーテーション=サークル!」
瞬間、生徒達の身体を光の輪が包み込んだと思うと、暗闇の中から彼らの姿は消えていた。
「…さて。そなたには本当に申し訳ないことをした。テレポーテーションは大掛かりな魔術。人数指定から実行まで長い時がかかる。かといってここにずっと居ればそなたの精神は狂ってしまうだろう。ただ、上手くやれば場所が無作為になる代わり、4250年の準備が3日ほどまで短縮される。場所を無作為にしたのは決して悪意あってのことではなく、そなたの精神を慮ってのことなのだ。そこは理解してほしいの。」
「わかりました。甘んじて受け入れましょう」
そして、謎の声は再び詠唱をはじめ、
暗闇の中、3日が経過した。
あまりに暇過ぎてタロット占いを何遍も繰り返していたところに、唐突に朗々とした声が響く。
「天の導きの元に汝が道を知らしめん!テレポーテーション=ランダムスポーン!」
丁度100回目の占いの結果が出た。
「…死神とは…幸先の悪い。」
そして闇の空間から、私の姿と意識は唐突に消え去った。
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