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4 囚われた少女

 エルゲ山はクルス村から南の方へいくと見える小高い山であった。

 山に入ったと同時にディルクはあたりを警戒した。


 確かに山にいるな。人狼。


 しかも、使い魔レベルの狼ではない。

 もっと上位に位置する人狼の気配を感じた。

 いつどこで襲われるかわからない。警戒は怠らない方が良いだろう。


「上の方に崖があったわ」


 ジルケは記憶を辿り、山の中を案内した。彼女が指し示す場所に丁度上の方をみると確かに誰かいるように見えた。


「急ごう」


 あそこに狼に誘拐された少女がいるのだ。

 まだ生きているのであれば早く助け出さなければらならない。

 ディルクは駆けだした。


「お前がしきるな!」


 面白くなさげにケヴィンは後を追い、すいすいとディルクを追い抜いてしまった。


「早いな」


 思った以上のすばしこさにディルクは感心してしまった。


「まぁね、二、三年前まで盗賊やっていて素早さは村一番なのよ」

「と、盗賊」


 思いもしない経歴にディルクは驚いてしまった。

 その反応にジルケはにかっと笑った。


「ああ、でも今は違うわ。足洗ってるし、罪も償っているわ」

「へぇ………二、三年で償えたんだ」

「うん、昔騎士やっていたゲルトさんがケヴィンを捕まえてね。でも、同郷のよしみだしゲルトさんがたくさん苦労を重ねてケヴィンの罪を懲役三年で許してもらったんだって」


 ケヴィンを助ける為にゲルトは多くの任務をこなして手柄をたてたけど、途中肩を負傷し騎士の仕事を辞めざるを得なかった。


 それを知ったケヴィンは自分の今まで行ったことを心から悔い、短くなったとはいえ刑期の間必要以上の重労働をして罪を償ったという。


「で、今は平和に酒屋の従業員やっているのよ。で、ゲルト信者で頑固者なのよね」


 それを聞き、ディルクは苦笑いした。


 崖の麓にまで辿りついたケヴィンは早速出てきた人狼たちにナイフを構えた。

 正確には人狼に仕える使い魔の狼たちである。


「っち、犬っころめ」


 ケヴィンは悪態をつきながら襲いかかってくる狼の攻撃をかわしナイフで狼の腹を攻撃した。


 一匹しとめ、狼の鳴き声が響いた。

 しかし、当然これで戦いが終わりではなかった。

 狼は崖の上からどんどん出てくる。

 一匹ずつ倒してもきりがなかった。

 頭上から狼が襲いかかってきた。右からやってくる別の狼に気をとられケヴィンは隙を作ってしまった。


「炎のファイア・ストーム!!」


 ジルケがそう叫ぶと炎の嵐がケヴィンの頭上めがけ襲う狼に直撃した。


「大丈夫! ケヴィン」


 右から襲いかかってくる狼を薙ぎ払い、ケヴィンはその場に崩れそうになった。それをジルケが支えた。


「気をつけろ。思った以上に狼が多い」


 目の前を見れば10匹の狼が別々の方向から二人に向かって駆け寄ってくる。鋭い牙を光らせながら。

 ジルケは急ぎ詠唱をはじめた。

 彼女の手から熱い炎が沸き上がってくる。

 これを形にして狼たちを蹴散らそうとしていた。

 しかし、彼女の術だけでは四方から来る狼を薙ぐことは困難である。


「ジルケ、危ない」


 ケヴィンが叫んだと同時にジルケの後方から狼が襲い掛かってきた。

 反応が送れたジルケはすぐに術を解き放つことはできない。

 ぎゃんという鳴き声とともに後方からの狼がその場に倒れ込んだ。


 倒れた狼の傍にはディルクの姿があった。

 ディルクは懐から取り出した細い投げナイフで三方からジルケたちを襲いかかってくる狼を狙った。

 全ての狼が倒れた。


 何匹か体制を崩れたのみで生きている狼がおり、ディルクは回復の時間を与えずとどめを刺した。

 ほんの数十秒の間にエルゲ山に潜んでいた人狼の使い魔が倒れてしまった。

 それを見てケヴィンは面白くなさげに顔を顰めた。


「別に、お前なんかいなくても大丈夫だった」


 危ないところを助けてもらっておいて憎まれ口を叩く彼にディルクは苦笑いした。


「もう、ごめんね。ディルク。彼ってさっきも言った通り本当に頑固で意地っ張りなのよ」


 ジルケはフォローを入れつつケヴィンの頭をはたいた。


「いいよ。無事でよかった」


 その言葉を聞いてジルケは嬉しげに笑った。


「本当に助かったわ。あんな一瞬で狼を一気にナイフで倒しちゃうなんて」


 先ほどまで弱いと思っていた男の思いもしない戦闘力にジルケは心から称賛した。


「ナイフなんて俺と戦いが被るっつーの」


 ケヴィンは面白くなさげにそっぽ向いた。不機嫌の一番の理由はそれであろう。


「それより急いで崖の上に行こう」


 この上にクレアという少女が捕えられているはずだ。

 それを聞き、ジルケはこくりと頷いた。

 狼たちの死骸を越え、崖の上に登ろうとした。丁度人間が通れるように階段状のものが作られていた。

 おそらく人狼が作ったものだろう。

 上にあがるとそこに金髪の少女が怯えたように丸くなっていた。


「クレアちゃん! 大丈夫」


 ジルケはクレアの元へ駆け寄った。


「その声はジルケさん?」


 クレアはおそるおそる目の前の少女の方へ視線をあげた。知っている人と知るとクレアの瞳から大粒の涙が零れおちた。


「本当に? ジルケさんなの?」

「そうよ! 正真正銘のジルケさんよ。よかったわ。おばさんが心配していたわ。それに、ニコルちゃんも毎日、あなたの為に村周辺に罠作って人狼を捕まえようとしているの」

「ニコル………そう」


 クレアは真っ青な表情で助けに来てくれた面々を見つめた。その中に知らない顔もあった。


「あなたは」

「はじめまして。僕はディルク・フェラー。銀十字から派遣された狩人だよ」


 クレアは安心してジルケに寄り添った。


「よかった。もう私、生きて帰れないと思っていたの」

「急いで帰りましょう。崖下の狼は片づけたけど、まだ山の中に潜んでいないとも限らないから」


 そう言いジルケはニコルに立つように誘導した。

 崖から立ち去ろうとした瞬間、ディルクはぞっとし背後を見た。


「どうしたの?」


 ジルケはディルクの突然の反応に驚き、尋ねた。


「………ううん、なんでもない」


 しばらく一方向へ視線を送っていたが、何もいないということを認識してディルクはようやく警戒を緩めた。


   ◇   ◇   ◇


「一瞬とはいえ、私の気配を察知したか」


 三人が立ち去った後、崖に一人の男が現れた。

 あたりには隠れる程の木々などなかった。まるで何もない空間から飛び出してきたかのように現れたのだ。

 銀色の髪に紅い瞳をしていた。肌は白というより、青白く中肉中背の美丈夫だ。年頃の女性が見れば目を奪われたことであろう。

 傍らには甘えるように狼の子供が青年に寄り添った。狼の群れの生き残りであろう。


「銀十字の小僧か。少し泳がせておこう」


 崖下の四人の姿を目で追いながら、男はそう呟いた。

 狼の子供を抱き上げて、その場から消えた。

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