序.夜闇の会話
美しい月の夜、森の中でただずむ青年がいた。
人狼が出没する森で人が夜出歩くのは危険とされていた。しかし、青年はそんなことを全く恐れる必要などなかった。
人狼の使い魔である狼たちが甘えるように青年にすり寄ってくる。まるで主人に甘える子犬のように。
青年の髪は月夜に輝く美しい銀色をしていた。そして血のように紅い瞳は見る者に恐怖を与える。
北方の国には銀髪の者が何人かいるということだが、この国では銀色の髪は珍しい。
人狼の特徴として最も多いものとされていた。
「カリス」
闇の中から女性の声がした。それに青年は少し意外そうな表情をした。
「ああ、お前か。もう良いのか? せっかくの旅だし、もう少しゆっくりすると思っていたが」
趣味の旅で一時不在になっていた女性の帰還を迎えた。
「あなた、どうしてココを見捨てたの?」
女性はカリスを責めるような声で聞いてきた。それにカリスはふっと笑った。
「何の用事かと思えば………そんなことか」
「ココは真祖に近いとはいえ私たちに比べれば未熟者、肉体を保持する能力も私たちより弱いわ。新しい身体として人間の娘のを折角手に入れたけど、すぐに狩人にばれてしまう。それをあなたはわかっていたはず」
「確かに。だが、あれが勝手にしたことだ。人の身体を利用し村の中に入り血肉を自由に貪れると考え身を滅ぼしたにすぎない」
「あなたは彼女を止められたはずよ! どうして」
「俺が着いた時にはすでにあいつは狩人を伴った村の自警団と接触していた。止めることは不可能だった」
カリスは冷ややかな口調で言った。先に狩人によって倒された同胞に対して悼むという感情すら見出さなかった。
「全く………すぐに血肉への欲を出してしまう浅ましい奴め。同じ真祖とは思えない程の痴れ者よ。姫から与えられた血がもったいない」
それを聞き女性はもう何も言えなかった。
「ああ、すまなかった。お前は私と違いあんな半端者でも仲間として大事に思う奴だった。気を悪くしたな」
しかし、彼は先のココへの発言は撤回するつもりはないと断じた。あくまで先走り自分から狩人の方へつっこんだ方が悪いと。
「狩人が来ると言うことを聞いてから嫌な予感はしていたわ。他の子たちの面倒をあなたに預けた私が愚かだった」
「それはよい。私としては半端者の面倒をみてくれておおいに助かるな。まぁ、元々はこの森はお前に任せていたのだがな」
「私はしばらく別行動させてもらうわ。あなたは狩人を早く何とかしてちょうだい」
「………無論そのつもりだ」
そう言うと女性の気配はなくなった。狼たちが寂しそうに鳴いた。




