VS四天王二人目―エリグチ(1)
着いたのは、ボクシング部だった。
ここに序列第五位の、エリグチがいる。放課後にすぐ向かった柔道部と違い、すでに練習を始めていたのか、ボクシング部は各々が練習中だった。
部員達は四人を見ても、一瞥しただけで練習からは離れない。サンドバッグを殴ったり、鏡を見ながらシャドーをしている。マナブには、分からない練習道具もあった。
ヒロとハルについて、ロープが張られたリングまでマナブとユウダイも歩いた。
見渡して、所在のなさをユウダイは感じた。格闘技関係の生徒は、あまり関わったことがない。それと知らずにハルとヒロ、生徒会と関わりがあるくらいだった。
先入観からか、どこか自分たちとは違う人種に思えた。シャドーをする目も、サンドバッグを殴る目も、真剣だった。
真剣に人を攻撃する練習をしていることが、自分の今までの生活と馴染まないのかもしれない。一年生らしき生徒は、どこかまだ近しい印象を持てた。
(人を殴れるメンタルに、変わっていくってことスか?)
そんなことを考えながら、ヒロやハル、生徒会には全く攻撃的な面を感じていないことに、疑問を持った。
(この人たちも、練習時間以外は優しい目だったり、態度だったりするんスかね)
いずれ比武を行うことは、自分の中では決めていた。それが明日になるか、来月になるかはわからない。その意識が、今まで考えていなかった思考をさせる。
カァン。
そんなことを考えていると、鐘の音が鳴った。
いつの間にか近づいていたエリグチが、四人に声をかける。
「おぉ、来たか」
エリグチは動きやすそうな白いタンクトップに、赤い短パンだった。エンジョウジに比べて、体は細い。というか、今朝裸になって挨拶をしたメンバーの中でも、細かった。当然ユウダイやマナブよりも格段に筋肉はあるものの、今向かい合っているヒロに比べると、やはり薄いと思ってしまう。
しかし一点、似つかわしくないことに腹は盛り上がっているのだ。
「全員集ごー」
軽くエリグチが声をかけると、部員全員が集まってくる。柔道部に比べて、敵意のようなものが刺さる気がした。
「見学させるよー」
「いいぜ」
ハルに似た穏やかな話し方に、ユウダイは少し緊張が緩む気がした。心なしかその声には、部員達の敵意も穏やかになっている気がする。
ヒロは応えながら、サポーターを装着していた。
「……エリグチ先輩、グローブ借りてもいいか?」
「構わないけど、まさか体験入部に来たわけでもないっしょ?」
ヒロは短く笑って、比武で合っているよと応える。
「ボクシングのルールでやりたいの?」
「いや? そういうわけじゃない。ボクシングが強くなりたい気持ちはさらさらないしな」
エリグチ先輩が比武で強くなりたいわけじゃないように。そう言いながら、部の備品なのだろう、置かれていたグローブの一つを装着する。
「ただ、先輩が受けてくれるなら、武器と時間だけは合わせたい」
中町ジムでもグローブは着けるので、馴れたものだった。装着し終えて、ヒロはエリグチを見やる。合わせるように、マナブとユウダイも目を向けた。
エリグチの目は、静かに燃えていた。表情や態度には出さないものの、熱い感情を内に堪えている。それが、感じられた。
「……いいよ。希望通りにどうぞー」
言って、シャツを脱いで上半身裸になる。エリグチの体は、締まっている。薄く脂肪が張り付いているのだが、余分なものがヒロやハル以上にない。しかし何よりも気になるのは、胸筋よりも腹筋がせり出ていることだろう。
(どんな腹筋のトレやってるか気になるっス……)
目が行かざるを得ない腹筋に、ユウダイはそう思った。体全体のバランスは悪いのだが、それが悪い印象にもならない。鍛えた極地の腹筋だった。
部員の一人にシャツを受け取らせ、ロープを掴むと、反動でリングに上がった。馴れた動きだった。
ヒロも合わせるように、学ランを脱いでカッターシャツになる。跳ばず、ロープとロープの間を引っ張って広げ、リングに上がった。
エリグチはスマホを手にし、操作していた。その作業は、会話を拒絶するようにも見えた。
ヒロもポケットから出したスマホを操作し始めた。3Dのホログラムが出現し、ハルがやったような手続きを進める。
ヒロのキャラクターは髪が燃えるように赤かった。上半身がハルのものより大きい。
『さぁ、燃えていけや』
ホログラムの激励に、おうと相槌を打ち、ハルにスマホを渡す。
『リングを準箱庭と設定します』
柔道場と同じように、練習場内のマイクから流れ出す。
二人は四角いリングの対角で、向き合っている。二人ともに表情はない。周りの部員たちは、柔道部ほど整然とは並んでおらず、立っていたり座っていたり、思い思いの格好でリングに視線を注いでいた。
『知り知らしめよ』
ヴンッ……という音と共に、また、今回はリングの上に二人のステータスが立体画像で浮かぶ。
ヒロ(Hiro)
Class 『S』
春の宮高校序列 七位
四季区序列 二十位
四季区二年生序列 十位
N県内序列 三十六位
N県内二年生序列 十五位
ATK 『S』
Speed 『C+』
Tec 『B』
拳 Rank『S+』
Speed B
Power S++
蹴り Rank 『B』
Speed C
Power B+
他 『B』
耐久 『S』
スタミナ 『?』
戦績
戦歴 「非公開」戦
勝利数 「非公開」勝
勝率 「非公開」%
エリグチ(ⅣTennnou―Ⅱ)
Class 『S』
春の宮高校序列 五位
四季区序列 十九位
四季区三年生序列 九位
N県内序列 四十位
N県内三年生序列 十四位
ATK 『B』
Speed 『S』
Tec 『S』
拳 Rank『S』
Speed S++
Power B
蹴り Rank 『F』
Speed F
Power F
他 『S+』
耐久 『S』
スタミナ 『S++』
戦績
戦歴 「非公開」戦
勝利数 「非公開」勝
勝率 「非公開」%
『示せ』
その言葉に合わせて、ボクシング部員の一人がゴングを鳴らした。




