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前座(1)



 柔道場から離れて、体育館のロビーで四人はベンチに座った。バレー部やバスケ部の掛け声が、ここまで響いてくる。

「ギリギリだったな!」

 安心してか、笑ってヒロがはしゃぐ。ハルは笑いながら、バッグからサラダチキンを取り出してにぎにぎと潰す。

「本当にねー。こっちが挑戦者だったから、あっちから奇襲が来るとは思ってなかったよ」

 潰して汁をこぼれにくくしたサラダチキンを、切り口で切りなが言う。

「悪手一つでも取ってれば、負けだったな」

 興奮が醒めていないのか、まだヒロははしゃいでいる。

「最初の奇襲を受けたこととか、不用意に首上げちゃったとことか、最悪だったけどねー。まぁあれ以上悪手あったら、確かに負けてたよ」

 勝てた安心からか、素直にハルは認める。

「踵で蹴ったのも、あれ以外に方法がなかったからだしね。最後の決め時を逃さずに決めれたのは、大きかったけどね」

「しっかし、やっぱ四天王は強ぇな。比武に向いていない柔道のエンジョウジ先輩さえ、あの強さだ」

「……本当にね。次はヒロだよ、気を付けて」

 マナブとユウダイは、わからないので口を挟まなかった。人間が出す音とは思えなかった、ハルのローキックの衝撃からまだ抜けていない。

「柔道って不利なんスか?」

 ようやく口を開いて、ユウダイが言う。

「不利だよー。比武は打撃を基本に考えられてるから。関節の事故を防ぐサポーターもないから、関節技は禁止されてるしね」

「打撃が基本なのに、打撃に馴れていないしな。顔の打撃が禁止されている格闘技は多いけど、打撃そのものがないと、防ぎ方もわからないはずさ」

 馴れていない武器で相手が襲ってきて、自分の馴れた武器の一部が使えない。言うまでもなく、大きな制限だった。それも、上位レベルになれば一撃で倒せる打撃を持つ。

 だからこそ、エンジョウジは打撃を使われる前に奇襲を取った。そして使わせる前に倒そうとした。最初に使わせる間もなく攻め、脚を封印できる体勢の締め技で、まともな蹴りを封じた。

「寝技だったら、どうだったんです?」

 次にマナブが質問する。

「寝技だと、なんとかできたと思うよ。柔道ルールでは蹴りやパンチが無いことを前提にごろごろ動き回るから、対策がされてないし。それに、脚力で空間さえ作れば筋肉で蹴れるしね」

 ハルの蹴りは、脚力に支えられている。当然地面で安定して蹴るほどの威力はないが、マウントを取ったパウンドとは、比べものにならない。

「逆に、俺がやったら寝技だとマズかっただろうな。腕の無力化は予想しやすいし、筋力を使わせない動かし方も多そうだ。ハルは脚だから多少制限されても、パワーで何とかできただろうけどな」

 ハルが食べ終わると、丸めてパックをゴミ箱に捨てた。

「じゃあ、行こうか」

 やはりやるのだ、とマナブとユウダイは思って無言になった。

 まだ今日は、ヒロが戦っていない。




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