四天王一人目
理想は、実現可能であるとは限らない。
それを制限するのが自らの不足なのか、他人の存在に達成できない要因があるのか、覆しようのない環境に因るのか。様々ではあるが、何かに阻まれることの方が多い。
多くが次善の策を取る。理想には及ばないが、次に望ましいものを得るための方策を考える。他にも自分の不足を補い、他人を説得するか排除するかして、理想の実現に向かい続けることもできる。
愚かなことは、どうしようもないことをどうにかしようと奔走することだ。人間は、機械なしでは空を飛べない。諦めた方がまだ良い。
しかしそれが、どうしても実現しなければならない理想であれば?
その場合、最前の次善の策は何か。
放課後。ユウダイとマナブは二年の教室に向かって、廊下を歩いていた。ヒロとハルに会いに行くためだ。
「しっかし、四天王先輩って序列高かったんスねー」
「まぁ体が鍛えてあるから、意外ってわけではないけど。生徒会もやりながらってのは、スゴいよね」
「それにしても、ハル先輩やヒロ先輩もやっぱり序列高かったんスね」
クラスメイトに、比武に詳しい眼鏡の子がいたので、聞いてみた。序列第一位は会長、第六位までは四天王の五人。そこに、ヒロとハルが続くようだった。
高い序列の生徒は、その筋では情報がやり取りされているようで、通っている道場やジム、果ては成績から交友関係まで知っていた。
「僕は、二人の成績が学年一位と二位だっていうことが、驚きだったよ」
なぜかショックだった。自分が今欲しい筋肉というものを、すでに手に入れている二人が、自分の得意分野でも優秀だった。悔しいわけではないけれど、筋肉馬鹿であってくれた方が嬉しかった。
「筋トレも比武もやって、道場やジムにも通って――、勉強もしてるってことっスよね。本格的に化け物かと思うっスよ」
「……あんまり、同年代に教えてもらうの好きじゃなかったけど、今度方法を教えてもらうよ」
筋肉では敵いはしないし、勉強している学年も違うけれど、負けられないと思った。やっぱり、得意分野と思っていたもので劣るのは、悔しいのかもしれない。
そうこうしているうちに、二学年の教室が並ぶ二階に上がった。
はじめは二年の教室に行くのに躊躇いもあったが、今は気にせずに入っていける。春校の先輩達はみな優しく、特に筋トレを頑張っている生徒に対しては暖かだった。
「おっ、また来たのか二人とも」
そう声をかけて、ヒロとハルを呼んでくれる男子生徒。
「……大丈夫? ヒロハルから変なこと教わったりされたりしてない? 何かあったら、すぐわたし達に相談するのよ?」
そう気にかけてくれる女子生徒も、毎回いた。特にマナブはかわいいと気に入られ、何人かに拉致されそうになるほどだった。
「筋肉もいいと思うけど、あなたはその華奢さが似合っていて、そのままで需要が大きいのよ? そこも理解した上で筋トレするか判断してね?」
そうどこか切実な声で手を握りながら言う女子生徒が、友人らしき数名から、どこかへ連れ去られていくのも恒例行事だった。
「YES ショタコン、NO タッチぃいい!」
という断末魔を残して、今日も見えなくなっていく。
そんな毎回の流れが終わり、ヒロとハルがバッグを肩に掛けてやって来た。
「悪い。俺達今日は筋トレ館行かねぇわ」
「わかってるっス。四天王先輩たちと、比武するんスよね?」
「ボクたち応援に――観戦に行かせてもらいたいと思って、来たんです」
すでに二人で話し終わって来ていた。二人は今月と言っていたが、今日言ったことを後に回さないだろうと思った。そして、今日やらないなら、今日言わなかっただろうと。
「別にいいけど――、比武にも興味あったっけ? 興味ないなら、見ても面白くないと思うよ?」
ハルも来て、言う。
「実はオレたちも、興味あるんです。自分が強くなれるかもしれないことにも、ハルさん達が一所懸命やっていることにも」
応援を観戦に言い換えたり、強くなれるに『かもしれない』と加えるところに、マナブの性格が出ているようで、ヒロは笑った。
「まぁ、朝もコソコソ見てたみたいだし。そもそも観るのは自由だしな」
そう言って、わしゃわしゃとマナブの頭を掻いた。長い髪がくしゃくしゃになる。
「わ、やっぱりわかってました?」
「会長に声かけられてたしねぇ。そりゃ気づくよ」
ハルは言って、じゃあ行こうかと促した。どこに行くかもわからないまま、マナブとユウダイは二人についていく。
やはり、春校の中でも鍛えられた体を持ったヒロとハルは、目を引く。すれ違う生徒は全員が歩く四人を見ていた。
視線を感じて、マナブとユウダイは思わず下を向く。堂々と視線を受けるヒロとハルを、真似できないと思いながら。
そもそも赤い短髪や茶髪の長髪で目立っており、成績や比武と肉体のいずれの分野かで、二人は知らない生徒はほとんどいない。その上、全裸で走り回ったり愛撫しあったり、朝の校舎で学長と脱いでいるのだ。
マナブとユウダイも二ヶ月連続で一緒に朝から脱いでいたことで、悪い意味で知られていることは、本人達は気づいていない。




