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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第二話 辿り着きたい場所
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春校生徒会四天王!



 五月に入った。

 校門を通り過ぎると、すっかり花びらが散った葉桜の緑が眩しかった。

 ヒロとハルには、以前から計画していた予定があった。

「進捗状況的には、十分だろ」

「そだねー」

 それぞれ取り巻きから受け取ったプロテインとサラダチキンを手に、校舎玄関へと歩いていた。

「おはようございます!」

「おはようございますっス!」

 後ろから、マナブとユウダイの声がして、振り返る。

「おはよう」

「おはよー」

 それぞれに返すと、二人は早歩きで隣に並んだ。

「真剣な話だったんですか?」

「……いや、何でだ?」

 マナブの質問にヒロが応えると、ユウダイが引き継ぐ。

「何か、後ろ姿が違う気がしたっス。デカいのはいつも通りだったっスけど、筋肉を使おうとしているみたいな」

 この一か月で筋肉のことを考え続け、自身や他人の筋肉を見て、筋肉が増えていくことを感じていたからだろうか。二人の感覚は、鋭くなっていた。

 事実、マナブの上半身もユウダイの下半身も、入学式の頃とは違いが、服を着ていても見て取れるまでになっていた。

 ハルが微笑んで誤魔化そうとすると、

「生徒諸君!」

という声が校内に響いた。

 四人や周りの登校中の生徒が見上げると、一ヶ月前と同じように、時計台の上に立つ学長の姿があった。

「おはよう!」

 今日も今日とて上半身は裸で、下半身はゴールデントランクスである。靴下も履いていない。

「ジジイ」

「爺様」

「学長」

「先生……」

 四者四様の言葉を発しながら、思いと熱量は同じだった。

 ヒロとハルは即座に走り出す。ユウダイは二人の姿を見て走り出す。それに遅れて、マナブは迷ったような表情を浮かべ、結局三人を追いかけた。




 三十分後、一ヶ月前と同じ光景があった。

 学長、ヒロハル、ユウダイ、龍造寺四天王の五人、マナブが職員室の前で正座させられている。

 その九人が、華ちゃん先生にスリッパで叩かれている。

 マナブは下衣を脱ぐ勇気が無かったため、上半身だけ裸だった。

 しかし、服を脱げば一ヶ月前と全く違うことが、その場の全員に分かった。

 学長や龍造寺四天王はマナブとユウダイを褒め、華ちゃん先生はまた涙ぐんでいた。

 華ちゃんが泣き出してお説教が終わり、解放されて服を着た。三十分にもわたる正座で、ユウダイが足を痺れさせていると、ヒロハルが龍造寺四天王に声をかけ、職員室を離れていった。

「……珍しいね。二人がわざわざ、四天王先輩達に声をかけて行くなんて」

「そ、うっス、ね。気に、なるっスけど、足が、痺、れて立てないっス」

 朝の二人の、真剣な様子にも関係があるのだろうかと、マナブは気になった。追いかけてみたかったが、ユウダイを置いてもいけなかった。足を掴んで揺さぶって、痺れを解くのを手伝う。

「あー、ちょ、キツ、いっスよ」

 喘ぐように言うユウダイに、こいつキメぇと内心で思いながらも、立たせる。

「さ、追いかけようよ!」

 長い髪を揺らし、マナブは走った。ユウダイは完全には痺れが取れていない足で、追いかける。

 七人はそこまで離れていない、職員玄関で集まっていた。ヒロハルの二人が並び、並ぶ四天王の五人と向かいあっている。

 二人はなんとなく、曲がり角の柱に隠れて様子を見守った。

「というわけで、胸を貸してくださいよ。先輩方」

 前までの流れは分からないまま、ヒロの声が聞こえてきた。龍造寺四天王が応える。

「「ふむ」」

「「「言いたいことはわかった」」」

「しかし俺達にも」

「立場がある」

「部の立場と」

「四天王としての立場がな」

「部は何とかしよう」

「「会長に許可を取れ」」

「「「然らば受けて立とう」」」

 相変わらずの鬱陶しい喋り方だと、マナブは苦笑いする。

「よく気が合う先輩達だよね」

 そう言って振り返ると、ユウダイの後ろに龍造寺会長が、無表情で立っていた。

(無表情っていうより、……怒ってる?)

 マナブの視線にユウダイも気づき、振り返る。二人の視線を受けた会長は、無表情を崩して笑顔をつくり、人差し指を指に当てた。

 静かに、ということらしい。突然の作り顔は、それまでの無表情と落差が大きく、恐怖しかなかった。言う通りにして、七人に視線を戻す。

「校内序列第二位ナリマツ!」

「同じく第三位ヒャクタケ!」

「同じく第四位キノシタ!」

「同じく第五位エリグチ!」

「同じく第六位エンジョウジ!」

「「逃げも隠れも」」

「「「せんわ!!」」」

 五人の返事は満足行くものだったのか、ヒロとハルは見合って笑いあった。

「じゃあ、会長に許可をもらいに行かなきゃねー。今から探しに行こうか?」

 ハルの言葉が聞こえると、会長の声とともに後ろで歩き出す気配があった。

「その必要はないよ」

 長髪をなびかせながら、七人の元へと歩いていった。後ろ姿も格好良い会長は、朝ヒロとハルに感じたような、体から熱を発していた。

 ヒロとハルも少なからず驚いている様子だったが、四天王の驚きはより大きかった。副会長ナリマツ先輩に至っては、あちゃーと顔に書いてあるようだった。

「やりたいなら、やりなよ。元より私に比武を止める権利なんてない」

 会長が口を開く度に、四天王の緊張が増していくのが分かった。ヒロとハルも、恐れはしないものの、真剣な表情になっている。

「ありがとうございますー」

 ハルが糸目を穏やかに微笑ませて、頭を下げる。それを会長は憮然として受け取る。

「いずれは、私にも挑戦するつもりなのだろう? その時を楽しみにしているよ」

 また会長が、笑顔をつくって応える。しかし、拳は強く握られたままだ。事情を知っているであろう四天王は、困ったような表情になる。知らないマナブとユウダイも、息を飲んでいた。

「……今月エンジョウジサンとエリグチサンを倒させてもらう。来月にも二人、再来月にアンタ含めて二人倒す予定だ」

 ヒロが冷たい空気の中、しっかりと会長の顔を見据えて言った。場の緊張感が増す。

 ギリッ。

 何の音だろうと、ユウダイは不思議に思った。

 ぎりぎりぎりぎり、ぎり、ぎりぎりぎり。

 それも束の間だった。職員玄関から、会長から聞こえてくる音だった。

「そんなに歯軋りすると、歯が擦り減っちゃいますよー?」

 ハルが穏やかに笑顔で言うが、この空気感では煽っているに等しかった。

「会長。今アンタ、ファンはおろか生徒にも見せられない表情してるぜ?」

 ヒロも、笑い声混じりに言っていた。

 マナブ達には会長の表情は見えなかった。が二人して、怒気だけで腰が抜けいてた。

 ふいに、歯軋りが止まる。

「……いいだろう。君たちが私にできないことをやろうとするなら、まず私を越えていけ。その前に、龍造寺四天王を越えてみせろ」

 それだけ言って、七人に背を向けた。表情は無表情に戻していた。

 マナブ達に向かって歩いてくるのを見て恐怖したが、数歩歩くと無表情から穏やかな表笑顔を取り戻した。

「二人とも、鍛えているね。服の上からでもわかるよ」

 そう二人に、生徒会長らしい言葉をかけて去っていった。



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