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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第二話 辿り着きたい場所
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ハルの一人歩き(4)




 地べたに座ってついたゴミを払うように、ジーンズを何度か叩く。

「アンタ、相棒に今日負けただろ?」

 そこまで調べていたのかと、ハルは驚く。思考を読まれたのか、占い師は金髪を左右に振って、勘の方だと勝手に応える。

「ついこの前まで、アンタの方が強いと思ってたんだけどな。俺の勘では、結構差を付けられちゃったように思うが、そうなンかよ?」

「……さぁね」

 言いたくないことは、言わない。どうせバレるのだ。

「アンタは成長してるよ。今日は初めて最後まで体の軸がブレなかった。それでも、俺は倒される気がしないけどね」

 言って、占い師は裸足になる。

「アンタ、ヒロのおまけっぽいよな。ヒロはアンタがいなくても成長し続けるだろうけど、アンタはヒロなしには頑張れない。気づいてるだろ? アンタは、たまたまヒロが隣にいたから強くなれたに過ぎない」

 ハルは血が沸騰するのを感じた。

 気づけば、右脚が金髪を掠めていた。占い師は膝を曲げてかわしている。

「当たらない当たらない。気づいてる? 今日アンタは来た時から苛立っている。いつもは誰の骨も折れていないのに今日は十人くらい骨折させてるぜ?」

 サポーターは着けていない。私闘になるからだ。それでもいつも、できていた加減が、今日はできていなかった。

「アンタ、サウスポーだったでしょ? 今、どんな姿で立ってるよ?」

 足下を見るまでもなく、目の前の拳を見れば分かる。左手が前、右手が後ろ。

 オーソドックスタイルで立っていた。原因不明の羞恥心に襲われ、サウスポーで立ち直す。

「利き足は左だよね? ただしアンタは、生活のほとんどを使う手は右を使っている」

 右ローを跳んで避ける。続けざまに放つ右の横蹴りを、身を半回転させて避ける。

「生来の本質は怒った時ほど、冷静でなくなった時ほど出てくるンだぜ? さっきもずっとビビッてたよな? 怖がりの男の子が、筋肉の鎧で体を覆ってビビらない振りをしている」

 避けながら話す。左の前蹴りを出そうと思った時には、バックステップで間合いを取っている。

 膝まで上げたハルの左足が、宙ぶらりんになる。

「キャラ付けでサウスポーにしてるンかよ? 拳で戦うっていう相棒に対して、蹴りで戦うアンタは、正道って感じしねぇな。それでも、蹴りだけじゃキャラで負けると思ったかよ?」

 踏み込んで右拳左拳とワンツーで出す。左横に飛び込まれていた。左ストレートの後掴んで膝を入れる予定だったのに、前にいないため出せない。

「ふっ」

 耳に息を吹きかけられる。

 恐怖とは別のゾクリとする感覚に、さらに怒りが沸く。前に出された左手を横に広げながら引き、肘当てを狙う。

 しかし空を切る。屈んでいた。

「しょーりゅーけん!」

 顎をカチ上げられ、仰け反る。フザけた技に怒り、構えて睨み、コンビネーションを出す。

 右ジャブ右ロー左ストレート左前蹴り右フック右ボディ、全てかわされ、距離を取られる。左前蹴り左ストレート右ジャブ×2右ミドル右横蹴り左ミドル、最後の左ミドルで裏に回られ、バックドロップの体勢で持ち上られげた。

 両腕をハルの腹に回した金髪の占い師は、勝利を確信した。が、投げられなかった。ハルの両脚が占い師の脚を後ろから締め付けている。

 そのまま背中から倒れた。ハルの重い体で地面とサンドイッチされる。

「いってー。形振り構わないねぇ、アンタも」

 ハルは脚を解いて、立ち上がる。

「これは、倒された状態だよね?」

 言って、空手の下段受けのような構えを取る。キックでは倒れた相手に攻撃する技はない。しかし、空手には踏みつけもある。下段蹴りがどこに当たっても、勝負は付く。

「……参ったよ。読めなかったトコが、思いの外重要なトコだったな」

 占い師は引き起こせというように、右手を出した。ハルはそれを、左手で掴んで立たせる。

 占い師は、大人数の不良少年を相手にするハルを見ながら、観察していた。どんな蹴りが多いのか、どんな精神状態なのか、どんな体調なのか。

 それからは、御自慢の勘、知識を得た状態での集合的無意識に任せて、ただ避ける。避けながら挑発を繰り返し、ハルが楽な、好きなコンビネーションを出しやすい状態にする。

 そうして読みやすい状況にし、確実なところで大技を仕掛ける。それが占い師の手だった。

 占い師の勘は、ほとんど先天的なものだ。それを手にする努力の仕方は本人にも不明な、つまりは才能。避ける天才とも言っていい。

「あぁ。アンタの相棒はこの前、拳捨てて投げで勝ってたな。何がなんでもって影響は、そこからもあったか」

 反省点を振り返るように、占い師は一人ごちる。

「そして、アンタの相棒が手に入れたのは、いや手にしかけている物、か? それは俺の避ける技術にどこか共通する物らしい。その対策をアンタは俺と戦うことで、手に入れようとしたってトコだな」

「正解。さすがは占い師さんだね」

 勝ったことで余裕を持ったのか、ハルは穏やかな笑顔を見せた。

「……そうかよ。まぁこっちもデータと考え方が増えた。腹は立つが、最後の練習にも付き合ってやんよ。オラ起きろテメェら!」

 不良少年達の大半はすでに、上体を起こして座り込んでいた。呻いていた者も合図で起きあがる。

「報酬は、焼肉屋山本でいい?」

「いや、今回は寿司屋にしといてくれ」

 ポイントは生活費に分類されるものにしか、使えない。幅は広いが、占いなどには支払われない。

 しかし、得たい者は考えるもので、協力する飲食店で会計を多く取らせて、そこから現金で得るという方法などを考え出した。

「次に行った時、会計は多めになってる。そこが支払いだと納得してくれ」

 占い師に頷いて応え、ハルは制服とバッグを拾って走り出した。

「待てゴラァ!」

「今日こそ逃がさねぇぞぉ!」

「この糸目がぁ!」

 追いかける数十人の不良少年を撒くのが、持久力と思考力を鍛錬する、最後の仕上げだった。



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