ハルの一人歩き(1)
ハルは一人、道場を後にした。すっかり暗くなった道を歩いている。
間宮家からヒロとともに夕飯に誘われたのだが、ヒロを一人置いてきた。
(今頃マユは、気まずそうに食べてるだろうなぁ)
そう思って、少し笑う。おそらくヒロも、自分のことを好きな女の子の家族に囲まれてご飯を食べるという状況に、少なからず参っているはずだ。
大先生――おじいさんはただただ喜んでいるだろう。お父さんの先生もヒロのことは気に入っているけど、複雑な気持ちで話すんだろうな。
師範、お兄さんは完全に認めているだろうから、和やかだろう。複雑なお父さんや、緊張しているマユを取りなして、ヒロと気軽に話させようとするんだろうか。
やっぱり、自分はいない方がいい。というか、いない方が面白い。明日ヒロにどうだったか、聞いてみよう。
そんなことを考えながら歩いていると、目的地に着いていた。
地方と呼ばれる四季区にも、ビルが立ち並ぶ場所はある。そして、地方ゆえに失敗したビルが集中して立ち並ぶ場所が、ここだった。
今では入るテナントもおらず、不良少年の溜まり場になっている。
息を深く吸う。汚れた空気だった。煙草を吸っている人間が多いのだろう。苦い臭いが鼻腔にまとわりつく。それも本当はこの匂いを、嫌いではない。
トレーニングに悪影響があるから吸わないが、別に忌避もしない。
ハルの姿は、すでに『観て』いたのだろう。数十人の人間が、ビルから出てきた。取り囲まれる。
「よぉ。また来たのかよ」
中心に立つのは、二十を過ぎたばかりの、煙草をくわえた汚い金髪の男だ。白いタンクトップを、だらしなく着ている。顔立ちは整っているのに、もったいないなとハルは思う。色褪せたジーンズについては、悪くないと思う。
しかし、隣の女は全体的に悪く思っていないようで、うっとりと男を見上げながら、しがみつくように寄りかかっている。薄着のランジェリーは布の面積も少なく、紫と黒の扇情的な色だった。
「うん、また来たよ。今日もよろしく」
サポーターは拳にも脚にもつけない。学ランを脱いでパーカーとスウェットに着替える。全身灰色だ。目の前で無防備にパンツ一丁になっても、取り囲む男たちは動かない。よく躾られていると、無言でハルは思う。
「同じような格好してても、俺らには同化しねぇのな。どこか上品だ」
そうでしょ? 僕には品性があるからねと、糸目をさらに細くして、ハルは微笑みながら答える。
気に入らねぇな。そう言ってくわえていた煙草を口から落とし、やっちまえ、と小声で呟く。
小声のはずなのに、その場にいた全員に伝わってハルへと一斉に襲いかかる。
「さ、食わせてもらうよ」
自分にだけ聞こえる声で、ハルも呟いて迎え撃つ。




