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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第一話 始める春の初め
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ようこそ春校へ!②



 四年前の二〇二〇年。東京オリンピックがあった頃、日本には空前の筋肉ブームが発生した。

『筋肉は美しい』

 その否定しようがない事実が、改めて国民に再認識されたのだ。その認識が深いものになったのは、二人の選手の存在にあった。

『マサ』と『リンコ』。東京五輪から二年は、CMやテレビ番組で二人の姿が流れない日はなかったから、知らない人はいないだろう。

 マサは、本名マサヒロ・ヤマダ。日本名で山田雅弘と書く米国籍の、空手のアメリカ代表だった。圧倒的実力で、金メダルを手にした男。通称『MASA』あるいは『マサ』だ。

 アメリカ生まれであるが両親は日本人、短髪の黒髪でザ・日本男児という外見。さらにアメリカ仕込みのスマイルを持つマサは、一瞬で日本人の心を掴んだ。

 マサの大きな特徴の一つは、空手以外でもボディビルとキックボクシングの一流選手であったことだ。そしてマサは試合終了後、必ず空手衣の上衣を脱いだ。

 機能美と、芸術的な美。両方を兼ね備えた肉体は、試合の度に衆目に曝され、大きな感動を生んだ。当初はそのパフォーマンスに難色を示していた五輪委員会も、

『あれだけ美しかったら、いいんじゃね?』

という前代未聞の許可を出した。最早、五輪の成功にはこのスター選手が必要不可欠とまで、認められていたからだろう。調子に乗ったのか、表彰台でマサは下衣まで脱いだ。

 下がボディビルのパンツだったことから、最初からそのつもりだったのだろう。さすがに、厳重注意を受けた。しかし、太腿、脚、尻の美しさで日本中、いや世界中を感動の渦に巻き込んだ。

 もう一人のリンコ――海野凛子は、空手の女子日本代表で、こちらも金メダリストだ。長い黒髪を一つに結び、後ろで縛る。一切髪で隠されない顔は、野獣のような鋭い眼光で、試合相手を射抜いていた。

 そんな彼女も試合以外では髪を下ろし、眼も穏やかでありつつ、武道家特有の凛とした姿勢を残す、美しき女性であった。

 空手道場の一人娘であり、生まれてきた頃から空手を続けてきたこリンコは、マサのパフォーマンスに難色を示し、公然と非難し続けてきた。

 何度も勝負を挑み、体格差と体力差に負けた。やがて、筋力トレーニングについてマサに助言を乞い、共にトレーニングをするようになった。また、技術的な指導をマサに行い、共に実家の海野空手道場で鍛錬もした。

 そして、出会ってから一年後、二人は結婚した。

 二人の美しすぎる英雄たちに、それぞれのファンからの非難は少なかった。

 マサ(リンコ)なら認めるしかない。それが、共通認識だったのだろう。それほどまでに二人は愛され、尊敬されていた。

 二人とも最初から、惹かれ合ってはいたのだろう。

 勝負は何度か興業にされ、トレーニングや鍛錬にも、何度かテレビカメラが入った。世界は、一年に渡るラブコメを見せられていた。

 二人ともが、所謂五輪ルールの寸止めではなく、実際に打ち合いを行うフルコン系の流派出身であったことも話題になった。有り得ないことではあったが、それも二人の鍛練とトレーニングを見れば、納得だった。

 二人に憧れてか、はたまたロマンスを期待してか、全国のスポーツジムと格闘技のジムに入門者が押し寄せた。

 それが一過性のものにならなかったのは『サポーター』の発明と、政治的な後押しもあったのだが、まぁ今はいいだろう。


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