改め捌き(2)
マユは左利きだ。ハルも左構えのため、オーソドックス対オーソドックスの鏡合わせのようになっている。
ジャブ、というか刻み。
ハルの右拳がマユの胸元に飛んでくる。
マユは後ろ足を少し曲げ、拳一つ分下がる。ハルは出した右手を戻さず、マユの首の後ろに手を開いて添える。キックボクシングのように開かないグローブではない、指の出た拳サポならではだ。
(マジかよ)
顔面への膝でしかない。その遠慮の無さにヒロが驚く。サポーターの上に膝サポを着けているとはいえ、ハルの殺人膝である。
「がっ」
その膝が届く前に、ハルが背中から道場の床に落ちた。マユはハルを見下ろすように横に立ち、足を持ち上げてハルの顔の横に、
ドン
と軽く音がする程度に落とした。
「それまで、だな」
ヒロは、少し安心するように右手と声を上げた。マユの技量を疑ったわけではないが、やはり心配だった。
「あー、連続でやられた」
マユへの信頼もあったが、先にヒロに負けた悔しさも残っていたのだろう。それが顔への膝に現れたのだとしたら、やはりやり過ぎでもある。
「動画撮ってても、イマイチ分かんなかったんだけど、結局どういうことだよマユ?」
「今から説明するわ。とりあえず、携帯並べましょうか」
そう言って、マユは再びヘアゴムを外した。
「マユ? 近ぇんだけど。てか場所おかしいだろ」
マユはヒロにあぐらをかかせた後、その上に乗ってスマホを持っている。
「何よ。わたしがせっかく丁寧に教えてあげようとしてるのに。教えてあげないわよ?」
「……いいけど、キャラじゃねぇだろ。デケぇんだよお前」
言うが、ヒロの背中や肩が太すぎるため、170センチ近くあるマユでも、むしろ小さく見える。
「お前って言うな。デカいっても言うな」
マユは言って、頭を振って後頭部で頭突きをする。ヒロは首を傾げて避ける。
カシャカシャカシャカシャカシャ!
マユのスマホから、連続撮影の音がする。
「あ、間違えちゃった☆」
「……お前な、露骨すぎるだろ。そしてそんなキャラでもねぇだろ」
お前って言うなと言いながら、マユは写真をクラウドに保存する。ヒロはため息を吐いて、諦める。
「……反応してもしらねぇぞ」
「反応したら殺す」
理不尽な扱いに、またため息を吐く。
「お前が乗ったんだからな。終わるまで離さねぇぞ」
ヒロは仕返しとでも言うように、腕をマユの腹に回し、両手を組んだ。
「……ひぁ!」
顔を赤くして、黙る。強がらない、本来のマユだった。
「ホラ、さっさと始めろよ」
「いいいいいーいわよせせ精々神妙に聴くがいいいいわ」
上擦った声で、強がりだけは取り戻す。
「あのー、僕もいるんだけど」
ヒロの後ろに立つハルからは、ヒロの背中に十分な余裕を持って隠れてマユの姿は見えない。が、また顔を赤くしたのがわかった。
パン、と音がする。マユが自分の頬を両手で叩いた音だった。
「じゃ、再生するからよく観ておきなさいよ」
そう言って、二つを同時に再生した。




