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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第二話 辿り着きたい場所
38/55

改め捌き(1)


 ヒロは重心を低くした。顎のすぐ下で、やや前傾。対するハルは、先週のヒロのようなフルコン空手の構えだ。左構えは変わらない。

 ハルが道場内で、キックボクシング全開の構えをすることはない。師範やマユに言われたわけではなく、ハルなりの感謝と敬意だった。

 右の前蹴り。先にハルが動いた。

 ヒロは分かっていた。右手だけで下段受けのように受けながら体を半身にし、左足を前進するとともに左拳でジャブのように胸を突く。道場内では、蹴りは顔面に出していいが、突きは顔に当てないルールになっている。

 牽制の前蹴りだったため、ハルは対応できる姿勢だ。右腕を縦にして防ぐ。すでに地に右足は着いている。着いたと思った右足は膝が伸び、折った左膝がヒロの顔面に飛ぶ。

 そこにヒロの姿はなかった。

「燃えろぉ!」

 声とともに突如、ハルの左脇腹で爆発が起きた。

「がっ!」

 ハルの体が一メートルほどズレた。爆発源の方向を見ると、ハルが正拳突きを終えた姿勢で前屈立ちをしていた。

「そこまで」

 マユの声が終わりを告げる。

「――まだッ」

 ハルが抗議の声を上げるが、あんたが望まないんでしょう? というマユの目で取り下げる。

 諦めるようにハルが、俯いて首を振る。

「へっへー、今日のトコは俺の勝ちだな」

 ハルは毒気を抜かれたように、ため息を吐く。

「……早かったね。この早い決着が、実力差だなんて言わないでほしいんだけど?」

 いつも飄々としているハルが、拗ねたように言う。

(一対一でやると、こうなるかぁ。受けた瞬間には移動しているから、二つ以上攻撃を仕掛けると一つ目で読まれていた場合、攻撃したつもりが隙だけ曝してる)

 考えていると、マユが答えた。

「そうは言わないわ。これは、ハルもヒロも知らない知識の問題よ。ヒロが多人数の中で偶然掴んだ、捌きよ」

「サバキ? 体捌きとかの捌きかよ? ヒロ式流水の舞っていう、かっちょいい名前、もう考えてたんだけど」

 今度は、ヒロが拗ねたように言う。

 その名前は確かにかっこいいけど、とマユは肩までの髪をゴムで纏めながら前置いて言う。

(マユもマユで変な子なんだよなぁ)

 ハルはそう思いながら、心の中でくすくすと笑う。負けた悔しさも、薄らいできた。

「分かりやすくやりましょ。ヒロ、ムービー撮って。ハル、今度はわたしとよ」

「え、僕?」

「えぇ。さっきのヒロと同じテンションでやりなさい。ただ、十秒だけね」

 いつも、ハルやヒロがマユとやる時には、寸止めでやっている。ハルやヒロが本来女子を殴れないことと、二人の腕力と脚力が強くなりすぎたため、周りが心配してのルールだった。

「……わかった」

 ハルが少し考えて言う。体格や体力では、ハルやヒロが大きく勝る。しかし、技術では二人はまだマユに敵わない。

 試合時間が長ければ、体格や脚力で押しつぶすことができる。十秒であれば、マユは避けきるだろうと思ってのことだった。

 ハルとマユが、道場中央で向かい合う。

「それでは」

 ヒロがその中心で立ち、端末を持って言う。体と手が大きすぎるため、スマホが小さく見える。

「はじめ!」



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