ヒロ式流水の舞(仮)
ヒロは重心を低くした。顎のすぐ下で、やや前傾。対するハルは、先週のヒロのようなフルコン空手の構えだ。左構えは変わらない。
ハルが道場内で、キックボクシング全開の構えをすることはない。師範やマユに言われたわけではなく、ハルなりの感謝と敬意だった。
右の前蹴り。先にハルが動いた。
ヒロは分かっていた。右手だけで下段受けのように受けながら体を半身にし、左足を前進するとともに左拳でジャブのように胸を突く。道場内では、蹴りは顔面に出していいが、突きは顔に当てないルールになっている。
牽制の前蹴りだったため、ハルは対応できる姿勢。右腕を縦にして防ぐ。すでに地に右足は着いている。着いたと思った右足の膝が伸び、折った左膝がヒロの顔面に飛ぶ。
そこに、ヒロの姿はなかった。突如ハルの左脇腹で爆発が起きた。
「がぁあっ!」
ハルの体が一メートルほどズレた。爆発源の方向を見ると、ハルが正拳突きを終えた姿勢で前屈立ちをしていた。
「そこまで」
マユの声が終わりを告げる。
「――まだッ」
ハルが抗議の声を上げるが、あんたが望まないんでしょう? というマユの目で取り下げる。
諦めるようにハルが、俯いて首を振る。
「へっへー、今日のトコは俺の勝ちだな」
ハルは毒気を抜かれたように、ため息を吐く。
「……早かったね。この早い決着が、実力差だなんて言わないでほしいんだけど?」
いつも飄々としているハルが、拗ねたように言う。
(一対一でやると、こうなるかぁ。受けた瞬間には移動しているから、二つ以上攻撃を仕掛けると一つ目で読まれていた場合、攻撃したつもりが隙だけ曝してる)
考えていると、マユが答えた。
「そうは言わないわ。これは、ハルもヒロも知らない知識の問題よ。ヒロが多人数の中で偶然掴んだ、捌きよ」
「サバキ? 体捌きとかの捌きかよ? ヒロ式流水の舞っていう、かっちょいい名前、もう考えてたんだけど」
今度は、ヒロが拗ねたように言う。
その名前は確かにかっこいいけど、とマユは肩までの髪をゴムで纏めながら前置いて言う。
(マユもマユで変な子なんだよなぁ)
ハルはそう思いながら、心の中でくすくすと笑う。負けた悔しさも、薄らいできた。
「分かりやすくやりましょ。ヒロ、ムービー撮って。ハル、今度はわたしとよ」
「え、僕?」
「えぇ。さっきのヒロと同じテンションでやりなさい。ただ、十秒だけね」
いつも、ハルやヒロがマユとやる時には、寸止めでやっている。ハルやヒロが本来女子を殴れないことと、二人の腕力と脚力が強くなりすぎたため、周りが心配してのルールだった。
「……わかった」
ハルが少し考えて言う。体格や体力では、ハルやヒロが大きく勝る。しかし、技術では二人はまだマユに敵わない。
試合時間が長ければ、体格や脚力で押しつぶすことができる。十秒であれば、マユは避けきるだろうと思ってのことだった。
ハルとマユが、道場中央で向かい合う。
「それでは」
ヒロがその中心で立ち、端末を持って言う。体と手が大きすぎるため、スマホが小さく見える。
「はじめ!」
マユは左利きだ。ハルも左構えのため、オーソドックス対オーソドックスの鏡合わせのようになっている。
ジャブ、というか刻み。
ハルの右拳がマユの胸元に飛んでくる。
マユは後ろ足を少し曲げ、拳一つ分下がる。ハルは出した右手を戻さず、マユの首の後ろに手を開いて添える。キックボクシングのように開かないグローブではない、指の出た拳サポならではだ。
(マジかよ)
顔面への膝でしかない。その遠慮の無さにヒロが驚く。サポーターの上に膝サポを着けているとはいえ、ハルの殺人膝である。
「がっ」
その膝が届く前に、ハルが背中から道場の床に落ちた。マユはハルを見下ろすように横に立ち、足を持ち上げてハルの顔の横に、
ドン
と軽く音がする程度に落とした。
「それまで、だな」
ヒロは、少し安心するように声を上げた。マユの技量を疑ったわけではないが、やはり心配だった。
「あー、連続でやられた」
マユへの信頼もあったが、先にヒロに負けた悔しさも残っていたのだろう。それが顔への膝に現れたのだとしたら、やはりやり過ぎでもある。
「動画撮ってても、イマイチ分かんなかったんだけど、結局どういうことだよマユ?」
「今から説明するわ。とりあえず、携帯並べましょうか」
そう言って、マユは再びヘアゴムを外した。
ご覧いただき、ありがとうございます。
感想、評価、レビューにより、作者の下がり気味なモチベアップ、手抜き部分の現象などが起こります。アへ顔晒して嬉ションもします。
どうぞよろしくお願い致します。




