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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第二話 辿り着きたい場所
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比武イントロ①



 人間が考える葦であろうと、脳髄が存在しなければ考えられはしない。物理的に肉体を持ってこそ思うことができ、存在ることができる。

 そして、脳髄は肉体の一部であるが故に、脳髄による思考は肉体に引きずられる。自分の思考である故に、自分に引きずられる。

 健康な人間は自分を強く憎むことはできない。基本的には自分の肉体を、あるいは自分の持つ肉体の属性を好むものだ。線の細い者は細い者を好意的に見る。しかし、自分の嫌だと思う属性を憎むがゆえに、同じ属性を持つ者を強く嫌うこともある。思考であっても嗜好であっても、同じことだが。

 それを目にした時、冷静さは奪われる。あるいは冷静でなくなった時ほど、表出する。




 マナブ達が入学して、一週間経った。

 入学式や説明等は終わり、授業が始まっている。

 とはいっても最初の授業であり、授業のイントロデュースがほとんどだった。興味もない教師たちの自己紹介にげんなりする時間――、にはならなかった。数学の教師は常に白いタンクトップを着たマッチョであり、化学教師は虚弱な再雇用の老人、物理教師は常に空手衣を着ている。全員キャラが強く、化学教師などの例外を除いてマッチョであった。

 それはともかく。

「高校の授業は、なかなか難しそうっスね」

 昼休み、マナブは机と弁当を運んで来たユウダイと、昼食を取っていた。

 まだ慣れていない学校について話し、筋トレについての話になった。帰宅部の二人は土日以外、毎日筋トレ館に通った。ヒロハルが見れない日もあったが、学長や他の教師が教えてくれた。

「筋肉痛は大丈夫っスか?」

「結構キツいねー」

 入学式の翌朝、マナブは起きて驚いた。胸が、腕が、背中が張って痛む。

 慣れない痛みは、運動会で経験したことがある筋肉痛だと思い当たり、何だか嬉しくなった。その時よりも、ずっと痛みは重い。それだけ、トレーニングが効果があったのだと思えた。

 早速母が量が増やしてくれた朝食を取りながら、両親に筋肉痛のことを話すと、二人は嬉しそうだった。父はいつもより楽しそうに仕事に向かい、母は喜びながらマナブを玄関から送り出した。そんな日常が、続いていた。

「でも、こんなに筋肉痛のある状態で、筋トレってしていいのかな?」

 ユウダイも、脚のトレーニングの後はよろめきながら歩いていた。

「ハル先輩は別の部位なら大丈夫って言ってたっスよ。色々考え方はあるけど、ハル先輩たちはそれで大丈夫だったって」

 成功した人の真似をする方が、成功の近道だろう。全面的に従った方がよさそうだと、マナブも思った。

「今日の午後は比武のイントロって言ってたね」

「そうっスねー。でも俺、実は興味湧いてきたんスよ」

 マナブは少し驚く。

「何スかね、強くなったらカッコいいっていう、曖昧な気持ちしかないんスけど。オレもマナブと同じように、脚触って驚いたんスよ。筋肉の形がはっきり分かって、テンション上がったっていうか。だから俺、少しは強くなったんじゃないかって思ったら、強いのか確かめたいっていうか、強かったらいいなっていうか。何か、わかってたけど、自分が男だって気づいたっていうか――」

 なんか、自分でも何言ってるかわかんないっスね。そう言って、ユウダイはゆるく締めたが、マナブにも少し分かるような気がした。

 自分が強いのか――、自分の存在はどれだけ確かなものなのか、それが誰かと戦って勝てば、少しだけわかりそうな予感。

 筋肉も力もないと自分でも分かっていて、それはこれからもそうなんだろう。そう思っていた昨日までとは、違うのだ。筋肉は鍛えれば強くなることを知った。鍛えた自分がいて、サポーターで相手も怪我をしない条件なら? 確かめることは、意義があるように思えた。

「……うん、わかる気がするよ」

 そう答えるだけにした。


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