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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第二話 辿り着きたい場所
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プロローグ


 鉄の味で、目が覚めた。

 味の正体である口の中で粘つく血を、飲み込む。砂でも口に入っていたのか、ガリ、という嫌な音が歯の間でした。

 頬が触れている。コンクリートの冷たさにも気づく。雨が降っている。体中が冷えていた。ビルとビルの間の空間には、人も通らない。十メートルほど離れた道路からは、時折通行人が、目をやって通り過ぎる。

 ……あぁ、そうか。

 気を失う前の状況を思い出して、その結果が今なのだと理解する。

 ハルと千尋は、どうなっただろう。焦って飛び出したいのに、今すぐ二人の安否を知りたいと思うのに、体は動かず、体を動かそうとする意志さえ、強くは持てない。

 顔だけでなく、体中が痛いのだ。血こそ頭からしか出ていないようだが、殴る蹴るの暴行は、全身に受けたらしい。丈夫なはずの学ランがところどころ破れ、汚れ伸びている。服も濡れて重くなり、ただでさえ重い体は、なお持ち上がらない。

 気を抜けば眠りそうになったが、首だけを持ち上げて、周囲を見渡した。

 数メートル離れて、ハルの痩せた体が倒れていた。

 ハル……、ハル……!

 何度か呼んだ。俺の口からはかすれた声しか出ず、雨音にかき消される。。

 それでも呼び続けると、ハルはもぞもぞと動きだし、顔をこちらに向けた。俺もそうなんだろう。目は、虚ろだった。

 あぁ、ヒロ。

 安心したかのように、口を動かした。声は、聞こえない。続いて口が、

『ち、ひ、ろ、は?』

と形を作る。

 わからない、という意味で首を横に振った。

「……ちくしょう」

 今度は、はっきりとハルの声が聞こえた。朦朧とする意識の中では、俺が言ったのかと迷う。同じ思いだったから。

「……なぁハル」

「……なに?」

「強く、なりてぇなぁ」

「……うん」

 雨は降り続いて、弱まる気配はなかった。いつの間にかまた口の中に溜まっていた、鉄の味を飲む。雨でもいいから、水が飲みたい。そう思いながらも体は動かず、そのまま俺は眠りに落ちた。

 

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