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右の拳と左ミドル 【筋トレとバトルの小説】  作者: 松明ノ音
第一話 始める春の初め
23/55

ヒロVSアカシ①



 同時に、間合いを詰めていた。どちらも構えは、相手に攻撃を当てるフルコンタクト系の空手に近い。ハルのキックボクシングの構え――拳はこめかみの高さで、肘をやや伸ばすものーーよりも、ボクシングに近い。肘は折りたたみ、拳は頬の高さだ。

 ――スタイルが噛み合っている。どちらも突きが中心の戦い方であるため、似た構えになる。

 ミドルや前蹴りならば、届く。その間合いに入ったが、何も起こらない。ややヒロの方が背は高いため、リーチはヒロが長い。しかしヒロは、自分からは仕掛けないようだった。

 そして、始まる。



「ッ」

 バシッ

「シ」

「ラ」

 ドン

「ヌ、っ」

「いッ」

「が」


 二秒後に映ったのは、仰け反るヒロと、バク宙して間合いを取ったアカシの映像。

 最初に良いのを入れたのは、アカシだった。

 ヒロのダメージは少ないが、ヒロからもアカシからも、動かなかった。

 間宮麻由――マユは家の道場で、リアルタイムでタブレットの映像を見ていた。肩まで伸びた髪が時折ずれ落ち、鬱陶しがるようにそれを耳にかける。

 道場生の稽古が終わった後、比武が始まるまで、時間がなかった。数人の道場生が、空手衣も脱がずに残っている。マユが、自身が通う夏校で今日、ClassSの春校生二人が、夏校に来て比武をすると聞いたことを、稽古中に口にした。

 観たいという道場生の一人がタブレットを持っていたため、そのまま観ることになった。全員の予想通り、二人の春校生は、ヒロとハルだった。

「今、何が起こったんですか?」

 緑帯の道場生が言ったため、右下のワイプに五秒前の映像をスローで再生するよう、タブレットを操作する。


 ヒロの間合いに入ったところからだった。

「ッ」

 アカシが半歩踏み込んで、右のローキック。というより、重心の動きが少ない空手の下段回し蹴りだった。

 ヒロは左足に体重を乗せ、左太股の筋肉に力を入れながら、右ストレートを伸ばす。

 バシッ

という音がヒロの太股で鳴る。

「シ」

 ダメージ覚悟のヒロの右ストレートはそれに遅れ、アカシの顔があった位置に到達する。

 が、即右足を戻したアカシは、右足で地を蹴って左前に踏み込んでいた。

 ヒロの右拳の下をアカシの頭がくぐり、ガラ空きの右脇に入る。

「ラ」

 アカシは予定通りに左中段鉤突き、ボクシングで言うボディフックを脇腹に入れる。

「ヌ、ッ」

 しかし、ヒロは右足を下げて身体をズラし、真正面からボディを受け、右アッパーをアカシの顔へ。

「いッ」

 アカシの顔にヒロの右拳が触れるや否や、アカシがバク宙しながら、右の足でヒロの顎を蹴った。

「が」

 ヒロは不意を突かれた蹴りを食らい、仰け反る。


 はぇー、という間の抜けた声を、緑帯の道場生は上げた。マユが、独り言のように解説する。

「ヒロは最初の蹴りを受けた時、軽いと感じたんでしょうね。それで、右の突きに体重を乗せず最後まで伸ばさなかった。予想通りフェイントに近い牽制のローで、ヒロの右前に入ることが相手の目的だったから、右足を引いて攻撃をズラしながら丈夫な腹直筋で受けて、アッパーを入れた。それも、トンデモ技で避けられて蹴りを入れられてしまった、そういう状況ね」

 緑帯は知能でも失ったように、はえーとまた声を上げた。マユはそれしか言えないのかと、腹が立った。苛立っているせいで心が狭くなっているのだと自覚し、画面に集中した。

 ワイプが消えたのを見計らったように、アカシがまた動き出す。

 間合いに入った瞬間、ヒロの左膝へ、右の前蹴りだった。

 ヒロは、何の反撃もできなかった。

 再びアカシは、間合いを取る。

 また、二人が間合いを詰める。

 次はヒロがジャブを出す。アカシは左手で手首を下から叩いて逸らし、右足の踵でヒロの左膝上を蹴る。蹴った時には即後ろにステップバックして、間合いを取った。

「ヒロさん、攻められてますね」

「さっき五十人とやって、体力切れてるんじゃないか?」

 口々に、道場生が言う。映像で観るヒロは、わずかに笑った。

 映像では、ヒロが口を短くパクパクさせた。マイクが拾えない程度の声量だったが、マユには予想が付いた。大方また「燃えるぜ」とでも言っているのだろう。

 ヒロには、アカシが何を考えているか、もう分かっているはずだ。マユは心の中で賞賛した。

(アカシ君、大したものね)

 夏校二年のマユは、アカシともヒロとも同学年であり、アカシとも面識がある。

 ヒロの右拳は、一撃で勝負を終わらせる。顔にもらえば一発で終わる。ジャブを手でブロックしてさえ、試合中その手は使い物にならなくなる。

 アカシはこれまで突き主体のはずだったが、左足を狙うために、突きを牽制だけに使っていた。結果、その牽制は一級。離れ業も使えるため、蹴りの質も悪くない。

 突くためでなく、必死で突きを逸らすために突き主体のような構えにしていたのだ。

 意識は、絶対に攻撃を当てられないことに集中している。確実に避けながら、左足を削っていく。右の突きで重要になるのは、支える左足だ。支えがなくなれば、突きは手打ちになる。いくらヒロでも、手の力だけでは相手を倒せない。

(でも、必殺の一撃を常に警戒しながら攻撃を続けるなんて、余程度胸がいる。ヒロは左足を削られているけど、アカシ君も精神を削られている)

 また、間合いを詰める。アカシが左足を攻め、すぐに下がる。それが、数度繰り返された。

 間合いを取られ、また構えた時ヒロが片膝を着いた。左膝が崩れ落ちたのだ。ヒロの顔が驚愕の表情を作った瞬間、その顔はアカシに蹴り飛ばされた。間合いを一瞬で詰めていた。

 ヒロは後ろ向きに倒れた。倒れたヒロをアカシは走って追い、右の踵で顔を踏みつける。絶好の好機に反し、必死の形相だった。



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