行くぜ夏校!
そのスパーリングを経て、今の関係に至る。
「まぁ、いいじゃないですか。あたしも大人になったってことで」
「胸は成長してないみたいだけどねー」
「余計なお世話!」
愛は言いながら、ハルにジャブを二発出す。ハルは首を振って避ける。
他愛ないように見えて、どちらもレベルの高い動きだった。
「よぉ、イチャついてんなー」
二人が振り向くと、いつの間にか砂袋の間から出ていたヒロがいた。黒いタンクトップから、蒸気が煙のように立ち上っている。頭からも滝のように汗が流れているが、赤い髪は上を突いている。どうなってんだろあの髪、と愛は思う。
「交代? ヒロ」
「あぁ、使ってくれ」
ハルは愛に「またね」と声をかけて、砂袋の間の戸を閉めた。
間を置かずに、
ダァンッ
という音が響く。
ダァンッ
ダァンッ
ダァンッ
ダァンッ
ダァンッ
…………。
愛は、戸で見えない向こうのハルを見続けていた。
「中学生がするもんじゃねぇよ、悲しい恋なんざ」
声に振り向くと、シェイカーを口につけるヒロが、愛の方を見もせずに呟いていた。
「もう高校生になりました! それに、ヒロさんには関係ないでしょ!」
「ま、そうだな」
「……ヒロさんとハルさん、一緒の人を好きなんですか?」
ヒロを向いて聞いたが、いつも通り「さぁなー」と適当な返事で返された。
愛は、ハルとヒロが何のために鍛えて、何のために強くなろうとしているのかを、知っているわけではない。愛の父が言う、
ーーありゃ、女のためだな。
という言葉を聞いて、愛自身も、多分そうなんだろうな、と思っているだけだ。
「一緒の高校でもなくて、全然会えないんでしょ。諦めたらいいのに」
「ま、愛さんには関係ないでしょ、てトコだな」
ふざけるように言って、ハハハと笑う。さっきはヒロが、そうだと言って聞かなかったから、お前も聞くなということらしい。
「もうしばらく待てよ。それについても、ハルの試合も。あとそれを叶えたいなら、俺の応援をしろ」
ヒロは言うだけ言って、鏡の前までシャドーを始めた。もう話す気はないようだった。
(意味わかんない。二人とも、教えてくれないし)
聞くことだけは諦めて、愛も自分の練習に戻った。いずれ、ハルに勝つための練習に。
ハルが砂袋の間から出てきて、縛っていた髪を解くと、ヒロも練習を終えた。シャドーの後、サンドバッグでフォームを確認。二重のチェックではあるが、筋トレも格闘技も、それほどフォームは重要なのだと、ヒロもハルもわかっている。
二人揃ってストレッチをしながら、栄養補給をしていく。プロテイン、BCAA、バナナ……等々。
互いのサンドバッグの音や、筋肉を誉め合っていると、愛は
「それについてはマジドン引きです!」
と言って、離れていってしまった。仕方ないね。
「愛が砂袋の間を、恋する乙女の目で見てたぜ」
思いに応えてあげてもいいんじゃねぇのと、ヒロは悪戯っぽく笑う。
「その台詞、間宮道場で名前だけ変えて返そうか?」
ハルもからかうように、笑って言う。それだけで、ヒロは何も言えなくなった。ストレッチに集中したいから話さない、とでも言うように体勢を変え、別の部位を伸ばす。
ハルも無言でストレッチに集中した。練習はまだ仕上げが残っており、時間も限られているのだ。
終えて、サポーターの装着を確認して、学ランを着直す。二人揃って、頭を下げてジムを出る。目的地は、夏校ーー私立夏の浦高校だ。夏校は、愛も通う武道優遇の高校で、筋肉の春校、技術の夏校と並べて呼ばれている。
春校からは近くはないが、両校の中間にある中町ジムからは、近い。そういう場所にある。
比武には、序列という名でランキングが毎朝十時に出る。国営の事業なので、高校ごとだけでは区切られない。つまり、最も広い枠組みのランキングは、全国ランキングである。
枠組みごとにも、序列は公表されている。
○校内序列
×年生序列
△地区序列
□県内ランキング
といった風に。全国では参考にしづらいため、この四つを組み合わせたものが、注目される。
また、サポーターにはチップが埋め込まれており、拳や蹴りの速度、威力を計測する。生徒が持つ携帯端末へと、それぞれデータとして送信される。
各々が自身の勝敗数、勝率、対戦者、自分のパンチや蹴りの速度や威力、耐久力が閲覧できる。比武を行ったことがある対戦者なら、一ヶ月の間、相手がどこで何度比武で戦かったか、結果はどうだったかを知ることができる。
また、お互いが承認してフレンドとして登録することで、一ヶ月という期限なしで、それらの結果を知ることができ、チャット機能も使うことができるようになる。格闘をコミュニケーションとした、国営のSNSだった。
知りたい相手のデータは、課金すれば拳や蹴りのステータス等も、一ヶ月の期限有りで知ることができる。
ヒロ(Hiro)
Class 『S』
春の宮高校序列 七位
四季区序列 二十六位
四季区二年生序列 十四位
N県内序列 五十位
N県内二年生序列 二十一位
ATK 『S』
Speed 『B』
Tec 『D』
拳 Rank『S+』
Speed B
Power S++
蹴り Rank 『B』
Speed C
Power B+
他 『B』
耐久 『B』
スタミナ 『?』
戦績
戦歴 「非公開」戦
勝利数 「非公開」勝
勝率 「非公開」%
と、いうように。




