仲間外れはだあれ
【この中に1人、仲間外れがいる】
そんなメールが突如届いたとき、俺たちの平和は崩れた。
俺たちは高校2年生。
奇妙なメールが届いたのは、ちょうど昼休みにご飯を食べていたときだった。
このメールが俺に届いた頃、教室がざわざわし始め、みんながみんな、周りをキョロキョロとしていた。
どうやらみんな同じメールが届いたらしい。
こんな状況じゃあ、ざわつくのもしょうがない。
何せ、死者からメールが届いたのだから。
「なあ、おい…」
「いや、誰かの嫌がらせだろ」
「みんな同じの来てる?」
「嘘だろ?橋本…?」
「やめろって、もう。消そうぜ。」
そう言って誰かがメールを消そうとしたが、どうやら消えないらしい。
どうやっても消えないメールに悲鳴が上がり始めたとき、教室前を先生が通り過ぎた。
途端、静まり返る教室。
ピロン!
大倉からのメールだ。
【このクラス全員、放課後に旧校舎に集合。】
教室内は静かだったが、みんなの気持ちは1つに決まっていた。
放課後、旧校舎の1階に全員集合していた。
「もし見つかったらヤバイ。上に上がろう。」
大倉の一声でみんなが階段を上る。
この旧校舎は来週から取り壊される予定で、今は立ち入り禁止。もし先生に見つかったら話し合いなんてできないだろう。
4階の一番奥の教室にぞろぞろと集まり、最後に教室に入った田村がドアを占めた。
「さて」
大倉が深呼吸をし、真剣な顔で俺たちに問う。
「仲間外れだって奴は立候補してくれ。」
しん、と場が静まり返る。
「な、なあ、ちょっと待てよ。」
空気を断ち切ったのは最後に教室に入った田村だ。
「まだ橋本本人からのメールだって決まったわけじゃないのに、何でいきなり仲間外れを探そうとするんだよ!?」
大倉が田村の顔を見つめる。
「それは…仲間外れを見つけてほしくない、つまり自分が仲間外れだっていう自首か?」
みんなの目が田村に向く。
「ち、ちが、違うよお。誰かのいたずらだったら、仲間外れなんていないんじゃないの?僕だって仲間外れがいたら怖いよお。」
俺は正直、あまり事態が飲み込めていない。
「な、なあ」
俺が言葉を発すると、田村に向いていた目が一斉にこちらを向く。
「何だ?吉村。言ってみろ。」
「そもそも、仲間外れって、何の仲間外れだ?」
近くにいた大西がため息を吐く。
「橋本からのメール。って時点で気づけよ。この前の、ほら修学旅行の。」
「橋本じゃないかもだろ?」
「違ったとしても。何でさ、橋本の名前使ったかってこと。もうアレしかないだろ?」
俺は3ヶ月前の修学旅行を思い出し、思わずゾッとした。
3ヶ月前、橋本は修学旅行中に死んだ。
旅館の裏に死体が埋められていたらしい。
自殺や事故ならそんなことにはならない。絶対に他殺だ。
まだ犯人は捕まっていない。
そんな中、橋本本人を名乗る人物からのメール…。
このメールが指し示す”仲間外れ”とは、もちろん…。
「あ、ああ、そうだな。変なこと聞いて悪かった。」
やっと事態が飲み込めた俺は、さっきよりも真剣な顔で返事をした。
「じゃあ、話を進めようか。」
大倉が再び仕切り始めた。
ピロン!
途端、一斉にメールが届いた。
…橋本からだ。
【仲間外れは橋本杏奈と関係がある】
「え?杏奈?」
最初にそう呟いた奴に、一斉にみんなの目が向く。
…大倉だ。
視線に気がつき、大倉が顔を上げた。
「ち、違う。俺じゃない。確かに俺は杏奈と付き合っていたことはあったが、もう1年以上前の話だ。」
咳払いを1つして、周りをぐるっと見渡した。
「正直に言って欲しい。橋本杏奈と何か関わったことのある奴は教室の真ん中へ集まれ。」
そう言うと、周りが一斉に教室の端へ移動する中、大倉は教室の真ん中へ立った。
それを見て、おずおずと教室の真ん中へ移動する人が数人。
「これで全員かな。」
大倉が声をかけたとき、集まったのは3人だった。
大倉、大西、そして俺、吉村だ。
「さて、仲間外れは3人に絞られたわけだ。それぞれアリバイを言っていこうか。」
こんな状況下でも取り仕切ろうとする大倉に少し関心を抱いたときだった。
ピロン!
また、一斉にメールが届いた。
やっぱり、橋本からだ。
【仲間外れはお前だ】
俺は思わずメールを閉じた。
俺が?仲間外れ?
俺は橋本を殺してなんかいない!
なぜ?何でだ?
…橋本杏奈か。あいつがこのメールを送っているのか!
橋本が死んでから、橋本に金借りてたって嘘ついて脅して強請ってたのを恨んでるのか?
俺は思わず叫びそうになったのを堪えた。
ここで取り乱したら、バレてしまう。そして、殺人の冤罪をかけられる。それだけは避けたい。
そうだ、さっさとこんな集まり、解散してしまえばいい。
「なあ、もうやめないか。虚しいだろ。みんなを疑うなんて。俺は信じられないよ。この中に殺人鬼がいるなんてさ。今日のところは…」
「殺人鬼がいる?」
みんなの視線が刺さるように痛い。
「なあ、吉村。」
「な、何だ?」
大西の目が心なしか血走っている。
「これ、何の集まりか、本当に分かってる?」
「あ、当たり前だろ?」
大倉がずいっと俺の前に出てきた。
「さて、じゃあこの集まりが何のために開かれたのか、聞かせてもらおうか。」
俺は少し緊張しながら答えた。
「この中に橋本を殺した犯人が1人いる。その犯人をあぶり出すための集まりだ。」
場が一気に静まり返った。
誰かが吹き出す。
一斉にみんなが笑い始めた。
俺もつられて笑っていた。
「そんなわけないだろ?」
「ありえねー」
一瞬だけ、空気が和んだように感じた。
ピロン!
また、メールだ。
橋本からだ。
【この中に1人、橋本を殺していない人間がいる】
「…え?」
場が再び静まり返る。
「さて、吉村。」
大倉の声がして、振り返った。
「自首、ありがとう。」
頭に大きな衝撃を受け、俺はみんなの不気味な笑い声を聞きながら意識を失った。