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07

 3週間を過ぎた頃、漸くヴァレアが目を覚ました。

 意識のないヴァレアに交代で魔力を注いでいたライアンクローズとクラレンスは、くしゃりと顔を歪ませ笑いながら彼女をぎゅっと抱き締めた。

 魔力の暴発でほとんどの魔力を使ってしまったヴァレアはその場にいたクラレンスが魔力を注いでいなければ死んでいたかもしれないという。

 もしかしてこれは『10歳の年にこの世を去った』を回避したのだろうかとヴァレアは思った。

 そう思うと途端、2人の腕の中で声を上げて泣いてしまった。


 ひとしきり泣いて落ち着くと、肝心なことに気が付いた。


 「ザカリーは?」


 ヴァレアが2人を見ると気まずそうに視線を逸らされた。

 その様子に『あぁ、帰ってしまったのだ』と理解した。

 帰れて良かったねと思う心と知らぬ間に帰ってしまったとおもう心がぎゅっと胸を絞める。

 何とも言えない気持ちにヴァレアは視線を落とした。


 「あ!!!!!ヴァレアが起きてる!!」


 そう言って一直線にヴァレアに飛び込み抱き付いた存在に目を丸くする。

 視線の先には目を逸らしたまま肩を揺らし、声を抑えて笑う男が2人。


 「騙したわね」


 「いや、姫さん。俺ら何も言ってないでしょ」

 「そういうことだ」


 ぷくりと頬を膨らましながら、それでもヴァレアはザカリーの背中にそっと腕を回した。




 ※




 さて、ヴァレアの意識のないあいだ、ザカリーは順調に修行していたらしく、もう最終段階に入っていた。

 冗談抜きで目覚めるのがあと数日、遅かったら本当に帰って行ってしまっていたかもしれない。


 ところで、帰る方法というのだが、飛竜に乗って帰るというものだった。

 ヴァレアは『それなら魔力を高めなくても飛竜さえ捕まえてしまえばいいのじゃないか』と思ったがそうは簡単なことではない。

 まずは飛竜を捕まえ従わせるのだが、飛竜というのは簡単に言えば脳筋。

 従わせたければ力で示せというタイプの竜だ。

 ちなみに、帰る方法として水竜という手もあるのだがこちらは気まぐれ出現の上、性格が合わないと仲良くしてやらないぞというタイプであるので博打感が否めない。

 飛竜はその点、住んでいる場所も分かっているし、力さえ示せば服従してくれるというある意味分かりやすい。

 そして何より、『飛んで帰るってカッコいい!』という少年特有のバカっぽさをザカリーが発動させたので飛竜を使うことに決めたのだ。

 飛竜を捕まえた後はその背に乗って飛んで帰るのだがここで問題がある。

 地上から離れた上空をとんでもない速さで飛ぶのだ。

 吹き飛ばされないようにその背に張り付くのは勿論、空気が薄くなるのを防ぐためと風圧をガードするのに魔力が必要となってくる。

 誰かが付き添っていくわけにはいかないのでザカリー自身の魔力が必要となるのだ。


 空間移動があるのではないかと思うかもしれないが、距離があるためにかなりの魔力を要する。

 ライアンクローズやクラレンスほどの魔力を持ってすれば送っていけなくもないが、魔族の介入を良しとしない人間に感知され何らかのいざこざが起きないとも言いきれない。

 リスクは少ないに限る。




 ※




 ヴァレアに抱き付いたザカリーは滅茶苦茶不機嫌なクラレンスにぺいっと剥がされている。

 ザカリーの方も不服そうだが大人しく少し離れたところに立った。


 「ところで鉱物は見つかったかい?」


 ライアンクローズに尋ねられザカリーは頷いた。


 「今、街の武器屋に納品してきました」


 2人の会話に全くついていけずヴァレアが首を傾げるとクラレンスが教えてくれた。


 「飛竜と戦うためにはそれなりの装備が必要なんだよ。ここの倉庫のをアサっていけばいいって言ったんだけど自分で準備するって言うんでグニザマ鉱山をご紹介したわけだよ」


 「グニザマ鉱山?」


 「島の南にあるんだけど、世界最強の鉱物と言われるエメラインが摂れる」


 前世の記憶からファンタジーの世界でいくと『ミスリル』とか『アダマンタイト』とかを浮かべたヴァレアだが全く未知の名前が出てきて更に首を傾げる。


 「魔力を纏わすからアカテスでもいいかと思うんだけど、やはり最強っていうのは魅力的だよね」


 アカテスも何か分からないが、『男のロマンだ』と言わんばかりに目を輝かせて語るクラレンスに質問でもしようものなら長引くに決まっているとヴァレアは頷くだけに留めた。


 「5日かかったけど十分なエメラインが見つかったから武器屋に頼んで剣を作ってもらっているところなんだ」


 すごいでしょといい笑顔でザカリーは続けた。

 が、ヴァレアは思った。


 5日間、山籠もりですか?私、気を失っててよかったよ。と。

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