05
短めの上、ひたすら悶絶ドリンクと格闘しています。
ディナーはとても素晴らしかったのに、とザカリーは思った。
しかし、今はどうだろう。
この無駄に広くて長いダイニングテーブルの上に毒々しい深緑と紫紺がマーブルになったホットドリンク(?)が2つ置いてある、ヴァレアとザカリーの前に。
幸いというべきか、無臭である。
チラリと向かいの人物を見るとこれでもかというくらい観察していて、ヴァレアもこれが何か知らないのだと分かった。
この場合、男の自分が先に飲むべきだろうか、と恐る恐るガラスのコップに手を伸ばす。
「あー、それ、魔力が回復して成長するのにとってもイイからぐぐっと飲んでねー」
クラレンスはニヤニヤと面白そうに教えると自分は美味しそうなお茶をカップから口にした。
何でかその態度が癪に障る。
昼間だってそうだったと、ザカリーは思う。
全力疾走で逃げる2人が魔力というより体力の限界だというところで素早く2人と魔物の間に滑り込んだかと思えば人差し指たった1本で弾き飛ばした。
力技かと思いきや、魔力で筋力を上げて弾いたからと言った。
言ったのだが、言い方が悪い。
ヴァレアには丁寧に魔力の移動と集中だよと手を取り優しく微笑んでいたのだが、ザカリーにはその身長差を活かして完全に見下していた。
言っていることは同じだったのに態度が全く違う。
いや、副音声では『なめてんのか、魔力の修行だと言ったのに何、姫さん巻き込んで走り込みなんだ、ごらぁ』と。
それはともかく、そんな態度のクラレンスにザカリーは負けん気を発揮してか、怪しい魔力成長ドリンクを一気に流し込んだ。
匂いがないので口に運ぶまでは良かった。
舌を滑り喉に差し掛かった時、第一波が来た。
苦味と酸味、そして余計な甘味が口の中で暴れ出し、飲み込むのが無意識に拒絶される。
涙を浮かべ震えながら、それでも喉を通ると第二波が襲ってきた。
喉が焼ける様に感じ、それから逆流させようと胃が暴れる。
両手を口に当て、必死に抑え込んでようやく胃に流れ着いた。
はぁはぁと肩で息をするザカリーを鼻で笑うとクラレンスはちょいちょいと呼ぶ。
涙目で睨みながら、それでも素直に近付くとクラレンスはザカリーに何か耳打ちした。
さて、ヴァレアはそんな悶絶嚥下を見てしまい、先に飲めば良かったと後悔している。
「ヴァレアもどうぞ」
終始、ニコニコしている父親に勧められ、震える手でコップを握った。
チラリと盗み見るとやはり笑顔を絶やさずヴァレアを見つめている。
息を長く吐くとヴァレアは覚悟を決めて恐る恐る口を付けた。
「?」
思ったよりも味がなくてヴァレアは首を傾げる。
飲み進めてみても、まるで白湯と変わらない。
「それね、魔族にとっては無味無臭なんだよ」
やはり何でもないように笑顔を浮かべる父親に代わり、ヴァレアはザカリーに心の中で謝った。