04
ザカリーの回復は思ったよりも早く、目覚めてから3日目には運動しても大丈夫なくらい回復していた。
屋敷での療養も思った以上に快適で、何より、魔族の国のはずなのにこの屋敷の中にはやたらと人間が働いて、そのことが精神的にリラックスできていた。
ザカリーが訊ねたところ、皆、ヴァレアに保護されて、そのまま居座っているという状態らしい。
勿論、元の国に帰る人間もいるのだが、この屋敷の3分の1は人間の従者だった。
だからなのか、回復して一番始めに訊かれたのは元の国に帰りたいか否かだった。
「家族が待っているので帰りたいです」
それがザカリーの答えだった。
母や妹、それに船で別れてしまった父の事が心配だったのだ。
「距離はあるが帰る方法はちゃんとある」
ライアンクローズの言葉にザカリーはホッと胸を撫で下ろした。
「しかし、君の不安定な魔力のままだと人間の国では畏れられてしまうかもしれない」
その言葉にクラレンスは凄く嫌な予感がしてその場をそっと離れようとしたが、何故か全開笑顔なライアンクローズに腕を捕まれてしまって逃げることが出来ない。
「そこでこのクラレンスが君の為に修行をしてくれるというんだ」
「言ってねーよ!!」
「はっはっはっ、彼は照れ屋でね。素直になれないんだが君の為に協力したいと思ってるんだよ」
「これっぽっちもそんな事」
思ってないと訴えようと口を開けたタイミングでヴァレアがはいはいはーいと元気に手を挙げた。
「私も!私も一緒に修行してもらいたい」
ダメかな?とヴァレアに上目遣いでおねだりされたらひとたまりもない。
「もうめっちゃ協力したい!姫さんと、ついでにお前も修行してやる」
幸福と不機嫌とをごっちゃ混ぜにして半ばやけくそな笑い声をクラレンスはあげていた。
その横でヴァレアは魔力を鍛えるいい機会だとほくそ笑んだ。
※
その数時間後、ほくそ笑んでいたあの自分におバカー!とヴァレアは叫びたかった。
クラレンスの修行はなかなかにスパルタだった。
魔力など、前世では全くなかったし、今世でも特に魔力でどうこうするような事をしてこなかった。
なので修行と言われても何をするのかピンとこなかったのだ。
ランニングとかスクワットとかの体力作りか、それとも修行僧の如く瞑想でもするのかと想像していたのだ。
「頑張って2人で倒せよー」
やたらと気軽にそう言うとクラレンスはふわっと魔物を目の前に召喚したのだ。
呼び出した魔物が絶妙なレベリングで、正直、死を覚悟した。
『あれ、10歳で死ぬってこれじゃねー?』とも思った。
ヴァレアが死に物狂いで魔力を練り出し攻撃しているのに対し、ザカリーは全く魔法の放出の仕方が分からないのかそこらへんに落ちていた棒を剣代わりに物理的に攻撃していた。
「それ、魔法の修行にならないでしょ!!」
「どうすれば魔法出るんだよ!!」
「魔力を練り上げて何でもいいから攻撃だせそうな想像しなさいよ」
「意味分かんねーよ!」
叫びながら棒を魔物の頭に叩き落とすと、無情にも真っ二つに折れた。
「・・・折れたわね」
「・・・折れたな」
2人が折れた棒から魔物に視線を移す。
「「めっちゃ怒ってる!!!!!!」」
ひぃぃぃぃぃ!とそれはも盛大に青褪めると魔物に背を向けて全力で逃げ出した。
「ヴァレア様、魔法でお願いします」
突如、媚びだしたザカリーにヴァレアは片方の口を上げて笑った。
「魔力がもうないわ」
「・・・ヴァレアの役立たずー!」
「それはザカリーの方でしょ!!!」
逃げながらそれはもう無駄な罪の擦り付け合いをしていたが、拉致が明かないとザカリーは急に止まって踵を反した。
「ザカリー?」
「こう、手の中に・・・」
ザカリーがそう言いながら両手を胸の前に構えると手の中に魔力が練り上がっていく。
突然の事にヴァレアは、いや、クラレンスですら大きく瞳を見開いた。
それはグルグルと炎の渦を作り上げ、そして迫りくる魔物へと解き放った。
ボンッと。
「え?」
それは魔物の鼻先に一瞬、触れて、すぐに消えてしまった。
虚を衝かれた魔物は急ブレーキをかけて止まったが、これ以上ないくらいに怒り出した。
「ぶゎかぁ!!!!!」
それはもう盛大に涙を浮かべて暴言を吐くヴァレアと一緒にザカリーは再び逃げるのであった。