03
少年は暫く迷っていたが自分でも拉致が明かないと思ったのか息を吸って吐くと話し始めた。
「俺はザカリー・マクベス、12歳。ローレシナ大陸の南東にある港町に住んでいます」
「フェイロン王国か」
クラレンスが呟くとザカリーは頷いた。
「父の手伝いの為、船に乗り諸島へと向かっていたはずなのですが・・・」
「気が付いたらここにいた・・・と」
「はい」
ザカリーが頷くとライアンクローズは瞳の色と同じキャラメル色の髪を幼い子のようにぐしゃぐしゃと撫でた。
ザカリーは不機嫌そうに乱れた髪を整える、
「暫くここに滞在して回復するといい」
「ライアン!!」
不満そうな声にライアンローズは待てとばかりに手で制す。
「取り敢えずは回復だ。体調が良くなったら先の話をしよう」
ライアンクローズはそう伝えると踵を反し、部屋から去っていった。
クラレンスもヴァレアの腕を引いて部屋を去ろうとすると、ヴァレアがそっと腕からすり抜けた。
「すぐに行くから」
クラレンスがヴァレアに視線を向けると厳しい表情でザカリーを見つめていた。
「すぐに、だよ」
そう念を押すとクラレンスも部屋を出て行った。
ザカリーは部屋に残ったヴァレアの意図が分からず、不安げに視線を揺らす。
緊張を息とともに吐きだすとヴァレアは口を開いた。
「君は『ザカリー・マクベス』?」
「はい」
「兄弟は・・・いる?」
何故そんな質問をされているか分からないが、ザカリーは正直に頷いた。
「妹が1人います」
「・・・繋がった」
ポツリと呟いた言葉はザカリーの耳に届かなかった。
「ありがとう。ゆっくり休んで」
これ以上、邪魔をしてはいけないとヴァレアが部屋を出ようとするとザカリーは躊躇いがちに声をかけた。
「あの・・・名前を教えてもらえる?」
「ヴァレアよ」
名乗るのをしっかり忘れていたヴァレアは苦笑しながら教えると今度こそ部屋から出て行った。
「ヴァレア・・・」
ザカリーは教えてもらったばかりの名を口にすると再び横になって瞼を閉じた。
※
ザカリー・マクベス 魔力持ち フェイロン王国 妹
得た情報を頭の中に浮かべると10歳とは思えないような憂いを帯びた表情をした。
「主人公の兄・・・」
思い出したばかりの前世の記憶と照合し誰に伝えるというわけでもないのに口に出した。
「フェイロン王国において希少な魔道騎士、ザカリー・マクベス。人間と魔族の戦いに最後まで難色を示した人物」
廊下の窓からザカリーの部屋がある棟の方を見つめる。
「ザカリーが戦いに難色を示していたのは単に争いが嫌いってだけでなく、魔族の交流があったからなのね。でも・・・」
ヴァレアはぐっと眉間に皺を寄せた。
現在、人間と魔族の間に戦いはない。
そもそも、ローレシナ大陸とキッパールは大海に阻まれ簡単に行き来など出来ないのだ。
空間移動するにも距離がありすぎて相当な魔力を使う。
魔力を持つ人間が少ないので人間から攻めてくるとは考え辛い。
「ヴァレア」
ぐるぐると思考を巡らせているとライアンクローズの優しい声がヴァレアを呼ぶ。
「みんなが待ってるよ」
そっと差し伸べられた手を取ると、ヴァレアは気持ちを切り替え、自分の為に開かれている誕生パーティーへと足を進めた。