01
軽く暴力的な表現が出てきます。
主に魔族が暮らすここキッパール王国は、人間の住むローレシナ大陸から遥か遠く離れた島国だ。
魔族というのは魔力を持つ知性を持った人型のことを指す。
悪魔系、エルフ系、ゴブリン系、妖精系と様々いるが全て魔族というくくりに入る。
ちなみにヴァレアはエルフ系の魔族で、耳の上部が尖っている以外はそれほど人と変わりはない。
透き通るように白い肌、薔薇色のふっくらとした唇、ふわりと軽く腰まで伸びる竜胆色の髪、吸い込まれそうなくらい大きな鈍色の瞳を持つ美少女のヴァレアを果たして人と変わりないと表現していいかどうかは別として。
ヴァレアは何かあると海を見てぼーっとする癖がある。
お目付け役のクラレンスを従えて、浜辺をゆっくり歩いていたが何となしにその場に座り込むと息を吐いた。
そんな憂いを帯びた少女の背後に暫く立っていたが、そっとしておいた方がいいのだろうとクラレンスは少し距離を置いた。
そんな気遣いもひょっこり現れた魔物を見つけた瞬間に消散したが。
「姫さーん、今日の晩飯は沢山お肉食べられるよー」
声をかけられて振り返り、ヴァレアはすぐに後悔した。
「おぉう、スプラッター・・・」
絹糸のような竜胆色の長い髪を後ろで1つにくくり切れ長の鈍色の瞳を嬉しそうに輝かせた美丈夫は魔物を素手で嬲り殺し、持っていたナイフで締めて血抜きをしだした。
片手に食材と化した魔物を掲げ誇らしそうにヴァレアに向かって歩いてくる。
極力それには視線を向けないようにしてヴァレアは口を開いた。
「クラレンス、例えば魔族が命を落とすとしたら何があるかしら?」
「姫さん、誰か殺りたいの?」
『喜んで手伝うよ』という副音声が聞こえてきたのは気のせいではないだろう。
ひくりと片方の口の端を上げて引き攣ってしまったのは仕方がない。
「そういうわけじゃなくて、一般論として聞いてるんだけど」
「んー、まあ普通に考えて魔力の枯渇が一番の原因かな」
魔物の解体をしながら片手間にクラレンスは話を続けた。
「病気や毒は魔力で治せてしまうし、怪我だってそう。万が一、体が吹っ飛びそうな爆発があっても防御壁や空間移動で避けれそうだし。結局のところ、それに見合う魔力があるかどうかって事だよね」
クラレンスは解体し終わった魔物をふわりと宙に浮かせると手で覆った。
あっという間に目の前から消えて、空間移動で屋敷の厨房にどさりと落ちた。
「まあ、姫さんは魔力ポンコツだからそこらの魔物相手に戦っても命が危ないからね」
だからお目付け役が必要だしと言われれば、事実としてもあんまりいい気はしない。
むぅと口を尖らせているとぐしぐしと頭を撫でられた。
「成長すればもっと魔力も増えてくるし、それまでは守られていてよ」
優しそうにそう告げられれば、大人しく頷くしかない。
解決策の見えない問題に再び息を吐くとヴァレアは立ち上がって帰路につこうと振り返った。
ふと、その途中で何かが目の端に映ったような気がして辺りを探る。
波打ち際に何か大きな塊があった。
何があるのだろうかとそちらに足を向けた。
「姫さん?」
てっきり帰るものだと思っていたクラレンスは首を傾げてから走るヴァレアのあとを追った。
大きな塊は近付けばすぐに何か分かった。
「ヴァレア!!」
クラレンスは塊にヴァレアが手を伸ばすよりも先にヴァレアの体を捕まえると抱き上げて離した。
「っ!!クラレンス!!」
ヴァレアを自分の後ろに降ろすとクラレンスはその塊を確認する。
「・・・息がある」
その塊は意識のない人間の男の子だった。