プロローグ
初登校です。
「はぁぁぁん?!」
そんな奇声を上げて少女は起き上がった。
鈍色の瞳が今にも零れそうだ。
彼女の部屋の前を通った運の悪い侍女は恐る恐る扉を叩いた。
「いかがなさいましたか、ヴァレア様」
少女ーヴァレアは額に手をあてると軽く頭を振るう。
さらさらと顔の横に竜胆色の髪が揺れた。
「何でもないの、大丈夫」
扉の外に声をかけると少しの沈黙のあと、侍女は「畏まりました」と返事をし去っていった。
ヴァレアは1人で眠るには広すぎるベッドに潜るとぎゅっと目蓋を閉じた。
そして先ほど見た夢を、いや、前世の記憶を思い返した。
地球の日本に生まれ、特にこれといった事もなく平凡に暮らしていた彼女だったが20歳の時に交通事故でこの世を去った。
若くして命を落とした事は確かに衝撃的だが、これは奇声を上げる様な事ではないだろう。
問題はその日本で彼女が遊んでいたゲームの事だ。
タイトルは思い出せないが内容は覚えている。
ざっくりと説明すれば主人公が人間と魔族の争いに巻き込まれるRPGだ。
開発元が女性にもゲームを楽しんで貰おうと主人公が少女なのと、登場人物が男女問わず見目麗しいのと、ついでに乙女ゲーム要素を盛り込んではいるが。
因みにヴァレアはその登場人物の中に含まれてはいない。
名前も姿もこれっぽっちも出ていない。
なのに登場人物の1人に深く関わっている。
魔族の王、ライアンクローズの一人娘その人なのだ。
どう考えてみてもヴァレアは重要人物に思えるがゲームの中で魔族の王が主人公にこう語っているのだ。
「妻は娘の命と引き換えに、その娘も10歳の年にこの世を去った。この色褪せた世界に何の未練もない」
このひと台詞だけの登場である。
因みに愛する家族に先立たれた魔族の王は恋愛攻略対象である。
ここまで考えてヴァレアは頭を抱えた。
「明日の誕生日で10歳だわ・・・」
今年中に再び若くして命を落とす、その事実に顔を青褪め体を震わせた。