見覚え
「まあ、いいでしょう。それから、雲雀ヶ丘くん 放課後に私の元へ来なさい。」
と、あまり怒っていないようだが、漫画によく出てきそうな先生のような口調で言ってきた。
「え、外川(とがわ 双葉の苗字ね)は…こいつは行かなくてもいいって言うんですか?」
思わず反射的に聞いてしまった。しかも、割とタメ口気味に
「ええ、あなただけ来てください。」
そうミーちゃん先生は答える。
「双葉と放課後に肩組んで行きますから!”笑顔を添えて”!」
ふざけ半分、理不尽な発言に対する抗議半分で言った。しかも、今気づいたが、双葉は自分の座席に退避していた。
「ダメです。余計にあなただけを叱りたくなりました。」
そうキッパリと言い、先生は教卓の方へ眉をひそめながら大股で歩いて行った。
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あの、紅い目と綺麗な黒髪をどこかで見た気がする…そう思ったのは、怒られたすぐ後のことだった…
「雲雀君、つぎ物理だよね?」
そう唐突に聞いてきたのは、となりの席の前島だった…
この学校に入学して早々に俺らのクラスは席替えをした。その時、となりの席になったのが目の前にいる前島 帆乃華である。入学してから、つまりはここ1ヶ月ほどで俺が前島に対して感じているイメージは、”大人しめ。だが自分の言いたいことはしっかりと言える子”だ。茶色がかった髪をいつもポニテにしてる。同じポニテと言っても、双葉と前島は全く違う雰囲気である。双葉が子供っぽすぎるのか?
よく分からないが、なんか違う気がする。見た目も中身も真面目だが、級長とかはしていない。真面目でも表に出ていかないタイプ。授業中に話しかけると、人差し指で”シー”っと言われたり、 ”あとで聞くよ” と言ってくる。ただ真面目なだけでなく律儀に後で話を聞くといった対応。さらには、普段あまり目立たないが割と整った顔立ちからうちのクラスでは隠れファンが数人いる。(九神はそのうちの一人だったりする)その前島がこう俺に言ってきた。
「悪いんだけど、つぎの授業の間、教科書覗かせてくれない?」
前島は、ミーちゃん先生にどっかのバカ達(俺と双葉)が怒られたせいで教科書を隣のクラスの子に借りれなかったらしい。仕方がないのでつぎの授業(物理)は、机を寄せて受ける羽目になりそうだ。
物理の授業が始まり、5分も経たないうちに早速教科書を使う時が来てしまった。俺らは机を寄せて教科書を見るがどうやら俺の手の陰で教科書がうまく見えないらしい。前島は、無意識だろうがこちらに体を寄せてくる。その瞬間、微かな甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。化粧や制汗剤などとは全くもって異なる女の子独特の香り。俺は、正気を保つので精一杯で授業内容は頭に全く入って来なかった。気がついたら、拷問のような天国のような時間の終わりを告げるチャイムがなっていた。