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100人の死にたがり  作者: 青野百里
1/2

1人目と2人目

「死にたいの?」


 はっ、と私は顔を上げた。平日の午後の公園。私はベンチに座っていた。私の目の前、穏やかな日差しの中に彼は立っていた。彼は日差しに溶け込むような穏やかな微笑みを浮かべていた。


「死にたいの?」


 今度は、しっかりと私の目を見て訊いてきた。私の口からは、するりと本音がこぼれ落ちた。


「はい。もう、生きていたくありません」


「そっか」


 言うと、彼は横を向き、すたすたと歩き始めた。どんどん彼の背中が遠くなる。


 なんなんだ?


 そう思っていると、彼は自動販売機の前で立ち止まった。ペットポトルの飲み物を2本買い、戻ってくると、私の隣に腰をおろした。「はい」と、飲み物を1本、くれた。ミネラルウォーターだった。


「ありがとうございます」


 礼を言うと、彼は微笑みを深くした。


 彼は前を向いて話し始めた。


「僕もね、死にたいんだ」


 そうですか、そうなんですか、と相槌を打とうとしても、なぜか打てなかった。


「だから、死ぬことにしたんだ」


 彼はポケットから錠剤シートの束を出した。


「この薬はね、眠るように死ぬことのできる薬なんだ。1錠で死ねるから、残りの99錠。君にあげるよ」


 そう言うと彼は、シートから薬を1錠とりだし、ミネラルウォーターで飲みくだした。すっ、と目を閉じ、動かなくなる。


 ……死んだ?


 私は、恐る恐る、彼の口元を手をやった。息は感じられない。首の脈を触る。脈がない。

 彼は死んでいた。


 なんて、なんて穏やかな死だ。


 私は、震える指で、彼の膝の上の錠剤シートの束を掴んだ。抱くように、隠すように、持ち上げると、早足にその場を後にした。


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