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五月病  作者: マシマ真
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最終話

そう言えば、高校生の頃、こんな話を聞いたことがある。


 卒業シーズンになると、卒業予定の男子生徒がこん睡状態になって発見されるのだそうだ。そして、その傍には粘液でベタベタになった第二ボタンが落ちていたという。


 僕の友人が掴んだ話では、そのとき、すごい美少女が男子生徒に告白をしていたそうだ。さらにその美少女は男子生徒から何か魂を抜き取ったようだとも語った。それを頭から信じたわけではないが、この話はうちの高校では有名な怪談のひとつになっていた。


 それと同じようなことがこのオフィスでも行われている?僕の冷静さを失った頭は、そんな妄想にとり憑かれていた。


「ありがとう、少し休んでから仕事に戻るといいわ」


 彼女はそう言って僕のネクタイから手を放した。それと同時に崩れ落ちる僕。そのまま、そこで僕は去っていく彼女を見送った。その時の彼女はここに来る前以上に若々しく光り輝いていた。




 後日談 社内 給湯室にて


「最近、期待の新人さん、来ないね」


「休む前からかなり憔悴しきった顔をしていたじゃない。体を壊したんでしょう?」


「たった一か月、働いただけで?大した仕事をしていないみたいだけど」


「ほんとよねぇ」


 給湯室にて談笑する三人のOLはここ数日、出勤してこない新人社員をネタにお茶を飲んでいた。彼女たちがいう新人社員は大学卒業後、この課の課長自身が履歴書を見て選んだ注目の新人でもあった。しかし、彼は入社一カ月を持って体調を壊し、出社できない状態になっていた。だから、同じ課のOLに話のネタにされるのは当然とも言えた。


「あなたたち、いつまでおしゃべりをしているの?もう休み時間は終わっているわよ」


 不意に給湯室に顔を出したのは、課の上司である女性課長であった。彼女たちは「はい、すみません」と口々に謝りながら、湯呑みを片付け始めた。


「それにしても、いつでも課長は若々しいですよね。仕事もうちの会社では一番できるんじゃないかって話ですよ。もしかしたら、昇進の話も出ているんじゃないですか?」


 OLの中で一番若い娘が尋ねる。これは単なるお世辞ではなく、彼女が女性課長に憧れていることから出た言葉である。


「ちゃんとした仕事をすれば、自ずと周囲も認めてくれるものなのよ。あなたもがんばりなさい」


 そう言って、女性課長は若いOLの肩に手を置いた。彼女は感激したように「はい、頑張ります」と答えた。


「それなのに、あの新人、許せないですね。課長がこんなに元気に働いているのに、大した仕事をしていないくせに休んで」


 別のOLが言った。


「そう言えば、去年も期待の新人が体を壊して退社したことがありましたよね」


 思い出したように若いOLも言う。


「ハイハイ、もうこの話はおしまい。男性社員がダメな分は私たちで取り戻しましょう」


 女性課長が手を叩いて、話を終わらせた。


「でも、気になりますよね。若い男性社員が立て続けに休み続けるなんて・・・・」


 若いOLが怯えた顔で言った。それに女性課長はおかしそうに笑い出した。


「気にすることないわ。ただの五月病でしょう」


 そう言うと彼女は、OLたちに背を向けて、彼女たちに気づかれないように長い舌を出して、真っ赤な唇を舐めた。


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