第8話「DEATH MAIL」
カッと目が開くと、音鳴はそのまま直立不動の体勢で固まる。
「おい!」
必死に声をかけていると、獅子王がツカツカ歩いてきて一言。
「ソウシン完了」続けて言い放つ。「女ぁ、ソイツ捕まえて」
すると音鳴は、その言葉に従うように、いきなりこっちの手首を掴んできた。
ギリギリと、まるで女性とは思えない力。
「ちょ!」
なんとか振りほどくも、音鳴はまるでゾンビのように何度も捕まえようとし続ける。
「な、なんだこれ!?」
両肩を掴まれ、思わず彼女を突き飛ばしてしまう。
と、獅子王が突き飛ばされた音鳴の身体を、抱き締めるように支えた。
「おいおーい、女の子に手を上げるなんて最低だな」
「……音鳴に何をした?」
どう見ても、まともな状態に見えなかった。
「別に、メールを送っただけ。この女もオレに使われて本望じゃねえの?」
獅子王は、音鳴の髪の毛をくんかくんかしながら、浮いているギャルに声をかけた。
「パコ。次のメール」
パコと呼ばれたギャルは、またふよふよと浮いたまま、吹き出しメールを作り始めた。
今までのたかしなら、きっとここで逃げだしていただろう。
だが今は違う。こっちにだって力がある。
「やってやろうじゃねえか」
親父に古武術を習っていて助かったぜ、
なんて展開はあるわけもなく、ケンカなんて一度もしたことはない。
電気のひもでシャドーボクシングをする程度だ。
なので取るべき手段はひとつ。
「おまえの力を見せてやれ……ねとり!」
「……ん?」
ねとりはまるで『呼んだ?』とでも言うように間抜けな返事をした。
「いや、だからおまえの力を見せて――」
「ないよ」
「は?」
ないということはアレか、いわゆるジョーカー的なやつか。
一切能力がない代わりに、相手の攻撃をすべて無効化するのだな。
「それでいいから見せてやれ」
「いや、だからそういうのないって……」
一瞬、ぽかんとした間。
「はあああああああああ!?」
その後絶叫してしまう。
「何もないって、本当にただの役立たずじゃねえか!」
「はあ? あなたの力なんだから! 文句は自分に言いなさいよ」
こっちの喧嘩に、パコはあきれたような顔をしている。
「私もヒマじゃないんだけど……もうヤっていい?」
たかしはねとりと顔を見合わせると、速攻ダッシュで逃げだした。
直後にメールの雨が降り注ぐ。
ギャング映画の主人公さながら全弾よけつつ、たかしは校庭の真ん中へ突入していった。
部活中の野球部やサッカー部、アメフト部から、果てには相撲部まで、
メンバーそれぞれが怒りの声を上げる。
「おい、危ないぞ!」「オフサイド!」「邪魔!」「どすこい!」
と、ザクザクザクっと、メンバーたちの背中にメールが突き刺さった。
背中には『横溝たかしを捕まえろ』の文字。
次の瞬間、彼らは一斉にこっちを向き、全員が砂煙をあげて追いかけてきた。
「ひぃ!」なんだこの肉弾戦! このままではヤバイ!
「ご主人、中! 中に!」
ねとりの声に導かれるように、なんとか校内に転がり込む。
急いで入口の扉を閉めると、すぐに追いついた連中が扉を開けようとガチャガチャしていた。
早々にその場を離れ、廊下を走る。
「ああもう、どうしてこうなった……」
油断なのか余裕なのか、向こうは自分の能力を隠す気はないらしい。
おそらく彼らの能力はこうだ。
パコと呼ばれるギャルがケータイでメールを作り、それを矢のように放つ。
それが刺さると、人がメールの文面通りに動くようになるといったところだろう。
ふと、獅子王の周りにいた、ふきだし付きの女の子たちのことを思い出す。
ということはアイツ、自分で女の子たちにキャーキャー言わせながら、
あんな気だるい態度とっていたわけか。
「イカれてんな」
めもりが尋ねる。「ご主人、対策は?」
「わからん」
間もなく、校舎入口のドアが突破された音が響いた。