その後……
そんなたかしを見守る人影があった。
やっとここから始まるのだ。どう話しかけようか悩んでいると、背後から声をかけられる。
「鬼姫」
「……学校では苗字で呼ぶようにと言ったはずですが」
鬼姫は振り向くと、背後にいた生徒会長に声をかけた。
「おにいちゃん」
生徒会長、天成無双。彼は正真正銘、血の繋がった鬼姫の兄である。両親の離婚で名字が変わっているので、気づく者はほとんどいないが。
離婚の件を問いただされても面倒なので、学校では兄妹のことは秘密である。
兄、天成は呆れ気味に言った。
「まだあいつに手を出そうとしているのか。おにいちゃん、許さんからな」
「だから、そういうのではないと何度言えば……」
「だが無駄だぞ。奴には『おまえに近づくな』という警告文を送ったし、生徒会にも怪文書を送って奴の評判を下げておいた! それでも付き合おうとするなら、学校改革しかない! 卒業までに、絶対にランク制を導入してやるからな!」
あきれる鬼姫に、天成は捨て台詞を残して去っていった。
すると入れ替わるように現れた一人の男。
「ハハハ。相変わらずだな、天成は」
野中清(通称キヨ)は、昔からの友人のように鬼姫に話しかけた。
鬼姫は淡々とした様子でキヨを見つめる。「で、たかしの心の方はどう?」
「だいぶ立ち直ったみたいさ。けど、しばらく誰とも付き合う気はなさそう」
「そう」鬼姫は笑みを浮かべる。
「いい加減、正体をバラせばいいのにさ。私は幼稚園の頃の同級生ですよ、って」
「バラしたところで、彼は何も思い出さない」
鬼姫の言葉に、キヨは頭を抱えた。
「まったく、兄妹そろって歪んでるさ。兄貴だって『学園のため』とか言いながら、妹が男と付き合うのが嫌なだけでしょ。ランク制とか言っちゃって、実質アンタの恋愛禁止網じゃん」
キヨは続ける。
「鬼姫だって、たかしに直接言えばいいのさ。あなたがモテるのが心配だから、イマジネを集めさせないよう警告しましたって。それが止められそうにないから、校則をきつくしようとしましたって」
鬼姫は鼻で笑う。「貴方、人の心を読むのは得意でも、私の心を読むのは苦手そうね」
「なんで? たかしのこと、好きなんじゃないの?」
「いいえ、むしろ嫌っているわ。幼稚園のとき、私の告白を断ったんだから。前世の異世界では、彼が勇者で、私が魔王。それでも幸せな家庭を築いたっていうのに。全部を忘れて、自分だけ幸せになろうったって、そうはいかない。一生一人でいてもらわなきゃ困る。貴方は私の命令通り、人の心を探ってくればいいの」
「はいはい」
「貴方は……私のイマジネなんだから」
そう、野中清は世良鬼姫のイマジネである。そしてキヨの力はダイブ能力。つまり彼は、他人の精神に侵入できるのだ。それにより、本人でさえ気づいていない本心を探ることができる。
だが、まさかそのダイブの影響で、たかしにイマジネ能力が生まれてしまうとは。ダイブを数回繰り返しているうちに、たかしの精神内にイマジネの種をまいてしまったのかもしれない。
仕方ないので、内部に偽りの記憶を置いてくることで、偽の記憶を植え付け、キヨのことは、存在しない中学時代の友人にしたてあげたのだった。
一時はどうなる事かと思ったが、物事は鬼姫にとっていい方向に転がってくれたようだ。
「で、肝心の彼のイマジネの方は?」
「中に眠っている状態さ。だから復活は可能っちゃ可能ね」
「そう」
真の復讐には、もう少し時間が必要ということか。
彼の中のイマジネも消してしまえば、鬼姫は彼のすべてを支配できる。過去の女の幻想を消し去れば、彼もこちらを振り向いてくれるだろう。
鬼姫に惚れさせて、告白して来た時に呟くのだ。
『貴方は以前、私を振っているのよ』と。
そう言って断った時の絶望的な顔を思うと、鬼姫は楽しみでたまらない。
期待に胸を膨らませていると、やがてたかしがこちらに気づいた。
鬼姫は、完璧な氷の仮面をかぶる。そして冷たい声で挨拶を交わした。
「貴方……また問題を起こしたそうね?」




