たかしの独白
ウジウジする主人公とかは大嫌いだ。
そうだよ、実際は元に戻っただけなのだ。イマジネのいない、普通の生活に。
そう言いつつも、さすがにヘコんでいた。好きなテレビ番組がいつの間にか終わっていたとか、そういうレベルじゃない。
あまりに急すぎた。せめてあいつらに、お別れくらい言わせてくれてもいいじゃないか。
家にこもりきり、一週間は経ったのだろうか。もはや平日昼のテレビ番組は制覇してしまった。今日もパジャマのまま日が暮れる。
「たかし、ご飯よ」
母親は何も聞かずに、ご飯を作ってくれた。一応は体調が悪いということにしているが、どこまで誤魔化せているのか。
心配かけているのはわかるが、どうにも気持ちが切り変えられない。明日こそ、明日こそなんとかしようと思っているのだが、時間が過ぎるだけで、なんともならない。大きな喪失感を埋める方法を考えあぐねていた。
いつもどおり適当に食卓に向かう。と、そこには意外な人がいた。
「……帰ってたんだ」
「仕事でな」
食卓の椅子に座っていたのは、単身赴任中だったはずの親父だった。どうやら俺が寝ている間に帰って来たらしい。
前会った時より、少し痩せただろうか。若干白髪も増えている。身長はとっくに追い越しているが、それでも逆らえる気はしない。
しかしなんでこんなタイミングで。何を言えばいいものか。
「さ、食べよ」母親は呑気に席に座った。
もくもくと向かい合って夕飯が進む。テレビの向こうではバラエティ番組の笑い声が響いていた。いつもは母親と二人で食べているので、親父がいるのは非日常だった。
不思議な感覚のまま、夕飯も後半に差し掛かった頃。
「たかし」親父がようやく声をかけてきた。
険しい表情をしている。
さすがに説教か。それはそうだ、無断で学校を休んでいるのだから。
「……はい」仕方ない。大人しく返事をした。
親父はグラスを傾けると、ゆっくりと喋り始めた。
「うちは別に名家の出でもない、特別な才能を持った血筋でもない。特別立派とは言えない家かもしれない。自分は自分の親父がやってきたように、おまえを育てることしかできない」
親父の親父は数年前に亡くなった。親父が泣いているのを初めて見た日。
「頼りたくないならそれはそれでいい。だがやりたいことがあるなら、好きなようにやれ。それで問題が起きたとしても、ケツを持つ覚悟くらいはしている。人の道を外さないという部分では、おまえのことは信用している」
「……え?」これはつまり、自分を頼れと言ってくれているのか?
正直、言葉が出なかった。大した話さなくもなった親父がこんなことを言いだすなんて。
高校生にもなって親に頼るなんて、と思っていたが、自分はまだまだ子供なのだと思い知らされる。やっとの思いで一言だけ告げる。
「あ、ありがとう……」
母親が入れてくれたお茶がやけに身体に染みた。
夕飯も終わり、部屋に帰ってベットに寝転んで考える。
俺が非日常を楽しめたのは、日常がしっかりしているからだ。見えないところで支えてもらっていたのだ。
だが、親が問題をどうにかしてくれるわけじゃない。生きるってことは、結局自分が自分をどうにかしなければならない。
じゃあ俺はどうすればいいか。今一度、自分の気持ちを見つめ直す。そもそもイマジネとは何だったのか。自分の願望が生み出したもの。そもそもその願望はどこからきていたんだろう。
「そういえば……」ふと思い出す。それぞれの時代に好きになった子を。
幼い頃、近所に憧れのお姉さんがいたなあとか。幼稚園では告白されまくっていたなあとか。
小学校で初めて好きという気持ちを実感したあの子。思えばねとりは、それぞれの子の面影がどこかにあった。
もしかしたら他の連中も、持ち主のそれぞれの心が反映されていたのかもしれない。イマジネは、それぞれが生きていた現実や理想、すなわち人生の証なのだ。
俺はそいつらと確かに一緒に過ごした。できればもっと話したかった。
これから、どうなるかわからない。ただ、作者閏をあのまま放っておくことはできない。
復讐は何も生まない。そんなことを言う奴がいるだろう。
けど関係ない。このままじゃ気が済まない。俺自身が前へ進めない。
倒すんじゃない。勝つんだ。前に進むために。




