第69話「スクールカースト」
「危ないところだったね、横溝君」
会長はこちらに人の良い笑顔を見せてくれる。
「会長……どうして?」
たかしの問いに、会長は副会長の身体をそっと床に寝かせる。
「全部知っていたんだ」
そしてどこか悲しそうに微笑んだ。
「白城の裏切りについては、世良クンが教えてくれていたんだ。何かを企んでいるようだから、気をつけた方がいいと。どうやら私は、優秀な仲間にだけは恵まれているようでね」
「けど、会長と鬼姫って、何か揉めてませんでしたっけ?」
「彼女自身は、学園に旧時代的な支配形態を望んでいた。私は冒険を望む方だから、その辺で意見の対立はあってね。だが私が切られ、副会長が上に立てば、学園を私物化される恐れがあると判断したようだ。だから彼女に『主人公同盟』の見張りを続けてもらって、副会長はそのまま泳がしていたんだ。だがどうやらキミのおかげで、同盟は崩壊したようだね。よくやってくれた。ありがとう」
「なんだ、鬼姫さんも味方だったんだ……」ねとりがほっと一息つく。
それはたかしも同じだった。
「こちらこそ、助けてもらってありがとうございます」
握手をしようと手を伸ばすと、会長はぽつりと呟いた。
「……これで思う存分、改革ができる」
「改革、ですか?」
「ああ。私はね、この学園にランク制度を作ろうと思うんだ」
会長は部屋にあったホワイトボードを縦に回転させる。
するとそこには、いくつかの図表と共に、ビッシリと文字が書かれていた。
「ずっと新しいモデルケースを探っていた。古臭い支配ではなく、新しい管理形態によるモデルケースを」
会長はホワイトボードの前で両手を広げる。
「題してスクールカースト制度。学業、スポーツ、生活態度に応じて、学園内で持てる権限を変化させようと思っているんだ。いわば、格付けによるランク制度。ランクに応じて買える食券も違えば、受けられる授業も違う、といったようにね。主人公同盟だっけ? 副会長は学園を乱すのに使おうとした。だが私なら、管理に使う。たとえば、恋愛は同ランク同士でしか認められないとしたらどうだろう。彼らを憧れの存在とすることで、学園全体のレベルも底上げされる」
あまりにもぶっ飛んだ話に、たかしは大したことも言えない。
「それは……あまりにも不公平では?」
優秀な奴なら問題ないが、たかしには不利な話だ。もし学園のヒロインクラスの子と付き合おうとすれば、まずランクを上げなければならない。
そんなたかしに会長は優しく微笑む。
「大丈夫だよ。モブにはモブの生き方がある」
「モブ?」
「もしかして……自分なら主役になれるとでも思っていたかな? だがすまない。しょせん主役になれるのは一握りの人間なんだ。だからメインを外れた余り物は、余り物同士でくっついておくといい。サブ同士の恋愛を認めないほど、私は心は狭くないよ」
「そんな言い方……」ねとりが抗議の声をあげる。
「インリ、この人ヤダ」「私も好きじゃない」インリとパコも続く。
「さすがに僕も暴論だと思います」と法家。
大人しく聞いていたたかしも、だんだん腹が立ってきた。
「振る、振られるは当人同士の問題じゃないですか。別に傍から見て、釣り合わなくてもいいでしょう。そういう人の、告白の機会すら奪うのはどうかと……」
「いやいや、告白をしたければ、ランクが釣り合うような努力をすればいい。本当に好きなら、相手の子と釣り合うランクまで上がれば――」
「だから! 努力したって、どうにもならない奴だっているんです! そんな奴にも、振られるチャンスくらいはくださいよ!」
ニコニコしていた会長の目がスッと冷たくなった。
「……私に逆らうのかね?」
「俺はただ――」
言い終わる前に、たかしの身体は吹っ飛ばされていた。
「がっ!」
「ご主人!」ねとりが駆け寄る。
「入学式でも言ったはずだ、権利を主張するには義務が必要だと。私は、作られた理想に近づくために鍛錬を重ねたんだ。成績も上げ、軍隊にも入り、皆が求める真の生徒会長へとなった。世界レベルと言われるこの身体は伊達じゃないよ。この程度の努力もできない人間が、私の計画に口を挟む権利はない!」
たかしのめちゃモテ学園ライフ。最後の障害はコイツだったのか。
もう、こうなったらやるしかない。相手が天才だろうがなんだろうが関係ない!
「ああああああああああああああ!」
完全に覚悟を決めて一気に飛び込む。
一発、二発、何発ボコられても、ガッチリ掴みにかかった。
今までの戦いで学んだ。今の自分には相手に打ち勝つ技術も体力もない。あるのは意地だけ。
一人では決して敵わないだろう。だがイマジネがいれば……!
「みんな!」
たかしの掛け声とともにインリの稲妻が走り、たかしと会長の身体は離れなくなった。
続いて会長の身体に、パコの『思い通りに動け』というメールが突き刺さっていく。
すると、会長の動きが止まった。




