第68話「あのお方『ワシじゃよ……』」
不来方・龍ヶ崎との戦いを終えた、次の日。昼休みに呼び出し放送がかかる。
「横溝たかし君、生徒会室までお越しください」
それは完全なる最終宣告だった。
「どうすんの……?」
心配そうなねとりの声に、たかしは半ば自動的に呟く。
「転校しよっかな……」
まさかこれほど大事になるとは。
死体を引きずるがごとく重い足取りで生徒会室の前にやってくる。中から女生徒が出てきて、気を遣ってくれたのか、扉は開きっぱなしになった。腹が痛くなってきたので、トイレにでも籠ろうかと思うが、
「ほら、入るなら早く(男子トイレ行きたくないし)」
パコに背中を蹴られ、はずみで生徒会室に入ってしまう。
足をもつらせてやってきたたかしを、その人物はいつもと変わらぬ様子で出迎えてくれた。
「久しぶりだね」
主人公同盟の連中が『あの方』と呼んでいた人物。
それはこの学園の生徒会副会長、白城恒久だった。
「あの、このたびは――」
こちらが何かを言い終える前に、副会長は口を開く。
「しかし残念だ。主人公同盟をこんな形で失うことになるとは……。
さすがの四天王も期待にはこたえてくれなかったか」
その言葉をきっかけに、たかしも聞きたかったことをすべてぶつける。
「副会長、なんでそんなに俺なんかを狙うんですか?
これもいわゆる『会長のため』ってやつですか?」
副会長は静かに首を横に振った。
「会長は何も知らない。そもそもこれは会長を助けるのとは真逆の目的で始めたことだからね」
「真逆?」
「僕はね……会長を降ろしたかったんだ。血筋と顔がいいだけの、バカな会長を」
たかしは目を丸くする。
「けど副会長だって、あの人は優秀って……」
「シンボルとして優秀だったんだよ。成績優秀で容姿端麗? 致命傷を負っても一瞬で再生できる? 小さい頃から軍隊に所属して働き、その実力は世界も恐れる? そんな人間いるわけないじゃないか。そういう設定は全部僕が作ったんだよ。過ごしやすい学園を作るために、カリスマが必要だったんだ。主役に足りえる人間が」
副会長は席を立つと、壁際にもたれかかった。
「たかだか生徒会が、なぜ教師の信頼を得て、ここまで力を持てたと思う? 優秀な会長というシンボルの元、ルールを決めていき、そうなるように仕向けていったからさ。いいかい? 権力とはルールによって、ルールとは権力によって作られるものなんだ。僕は過ごしやすい学園を作り上げていくために、影ですべてをコントロールしてきたんだ」
法家が驚いたように声を出す。
「会長ではなく、貴方がすべてを……?」
「ただ誤算だったのが、会長というシンボルが、予想以上に大きくなりすぎたことだ。それで会長も勘違いしたのか、僕との間に意見の食い違いが出てきてね。ついには、この学園を大きく変えたいとか抜かし始めた。せっかく僕が作り上げた、この学園を。神輿はバカなままの方が良かったのに……僕の言うとおりに動いておけば良かったのに!」
副会長は荒くなった呼吸を落ちつかせる。
「だから会長を切ることにしたんだ。そのために問題を起こして風紀を乱せるグループを作った。それが主人公同盟さ。彼らを使って、会長の支持層である女生徒たちを揺さぶろうとした」
「セコい話……」パコが吐き捨てる。「文句があるなら、本人に言えばよかったのに」
「ふゆぅ、なんだか、かわいそうな人なの……」インリが同情の目を向ける。
たかしも理解をしていた。副会長が本当に抱えていたもの。それは理想でもなんでもなく、きっと会長に対する嫉妬なんだろうと。
神輿に担ぎあげたはずの劣等生が、実力をどんどん伸ばしていき、ついには自分の手すら届かない存在になってしまった。副会長にはそれが耐えられなかったのかもしれない。
つい昨日、天才二人を相手にした、たかしならわかる。
「本当はわかってたんですよね……この世には、どれだけ努力しても届かない『天才』がいるってことを」
「うるさい!」
副会長は叫ぶと、顔を抑えこちらを睨みつける。
「まさか会長を潰す前に、一般生徒に邪魔されるとはね……。許し難い。万死に値する!」
副会長が手を震わせる。
「こい! 最後は僕が相手を――」
言いかけた副会長の目が、カッっと見開かれた。
すると全身の力が抜けたように、ズルズルと体勢を崩していく。
崩れゆく副会長の後ろから現れたのは、話に出ていた生徒会会長、天成無双だった。




