第66話「オーバーゲーム」
飛散していた意識が戻りつつある。
目の前には、雲一つない空が広がっていた。天井がないというのはこんなに開放感があるものなのか。
静寂の中、龍ヶ崎はゆっくりと身を起こした。
「お目覚めですね」同時に御絶も姿を見せる。
「イェー、お早いおはようネー」オーウェンも声をかけてきた。
するとそこに、たかしと獅子王、不来方以外に、もう一人いることに気づく。
龍ヶ崎は思わず声をかける。
「まさかお前までも裏切るとはな、隅田」
隅田はいつもと変わらぬ様子で、首を横に振った。
「やれやれ、勘違いしてもらっては困る。俺はただ、たかしに呼ばれて、勝手に囮に使われただけなのだ。なんだって俺はこう、人に都合よく使われるのだろう。こんなことなら、あだ名を変えなければならない。そう、たとえば――」
話途中で龍ヶ崎は立ち上がり、たかしに目をやる。
「しかし、まさか読みあいで素人に負けるとはな……」
「俺を買いかぶりすぎだ。あれは別に策略じゃない」
そう言ってたかしは獅子王の背を叩いた。
「俺は獅子王に言っただけだ。俺が全力で囮をやるから、あいつらの動きを止めてくれって。そしたら、イマジネを貸せって言ってきたから貸しただけ。しかも、失敗しやがったから、とっさにスタンガンを使っただけ」
獅子王は反論する。
「オレは最初からそれが目的だったぞ? アイツらの動きを止めて、アンタがトドメで」
「いやいや、俺がスタンガン拾わなかったらどうしてたんだよ?
パコの攻撃かわされてたじゃん。あれ予想外だったろ?」
二人はああだこうだ言い合いをしている。
龍ヶ崎は深く息をつく。なるほど、たかしの思考を読んでも無駄だったのだ。
これは龍ヶ崎の読み違いだ。
てっきり最初の時点で、たかしがしっかりとした作戦を伝えたと思いこんでいた。だが実際は、作戦とも言えない曖昧なもの。ここはたかしだけの思考ではなく、同時に龍ヶ崎の思考も読む、二面読みにするべきだった。
偶然と言われればそうなのかもしれない。だが人は、その偶然性を含んで生きている。
結局この勝負は、対戦略の勝負ではなく、対人間の勝負だったのだ。まだまだ詰めが甘い。
だが詰めが甘いのは向こうも同じだ。
気絶してる間には奪えなかったのか、こちらのイマジネ、御絶には手を出していないようだった。
「勝負はまだ終わっていない……不来方、行くぞ」
すると不来方が両手をお手上げのポーズをする。「もう無駄だ」
「なぜだ? 何かされたのか?」
そんな二人に、たかしは淡々と告げる。
「決着はおまえたち二人で付けてもらう。二人にはある特殊なルールを設けさせてもらった」
バニー姿の法家が二人の前に立つ。
「龍ヶ崎さんと不来方さんに設定したルールは二つです。
その一、決着付くまでイマジネ能力の効果は、常に発動し続ける。
その二、決着がつくまで二人は、決められた範囲から出られない。
あ、言っておきますが、僕の力はもう解除不可能です。
貴方が気絶して、御絶さんが消えている間に、二人の本体に効いてしまっていますから。
能力は内包されてしまっているので、後から防御しても無駄です」
インリが続く。
「ついでにインリの力で、周りの場所に人が近づけないよう、反発させたのー。
戦いが終わるまで、助けも来ないよぅ」
たかしが最後を締める。
「つまりどちらかがどちらかを倒さない限り、どこへも行けないってことだ」
「じゃあさっさと決着をつければ――」
龍ヶ崎が言い終わる前に、不来方が殴りかかってきた。
だが自動的に御絶がそれを駒でガードする。
駒は壊れ、次の駒が補充されるが、実際はノーダメージだった。
「これは……」
「龍ヶ崎のイマジネが常に発動しているから、不来人の攻撃は一切効かないってこと」パコがふよふよと興味なさげに携帯をいじる。
「じゃあこちらから攻撃をすれば……」
龍ヶ崎が手を出すが、不来方の身体に触れる寸前で、駒が勝手に龍ヶ崎の拳をガードしてしまう。
「!? どういうことだ?」
その疑問にはオーウェンが答える。
「ごめんねソーリー、ワタシが応援してるからネー」
続いて不来方。
「オーウェンの応援が有効になっているからな、今の俺は全身が武器だ。おまえが触れようとしても、俺の攻撃と認識してしまって、手出しすることすらできない。つまりお互いがお互いを攻撃できないってことだ」
不来方は悔しそうに拳を握る。
「龍ヶ崎、どうすればいい?」
「……詰みだ」
どこかの故事のように、こっちの矛盾を突いてきたか。
御絶は、扇子を不機嫌そうに頬に叩きつけている。
「やってくれたわねえ……」
龍ヶ崎も続く。「僕たちは一生このままか?」
「そこで登場するのが、この私!」
今までどこにいたのか、隅田のイマジネ、三五七が突然現れ、偉そうに腕を組んだ。
「感謝しなさい! 私がいるおかげで、アンタたちの決着がつくんだから!」
詳しい解説は、たかしがしてきた。
「隅田のイマジネを借りて、絶対防御の確率を100%から下げさせてもらった。
有り金がないんで、下げたのは0.1%ほどだけだけどな。
つまり不来方の攻撃だけ、当たる可能性はゼロじゃない。
不来方が攻撃を繰り返せば、どこかで勝負はつくだろう。いつになるかはわからないけど」
隅田がやれやれといった様子で首を振る。
「だから裏切ってないと言ったろ? むしろ助けているので感謝してもらいたいくらいだ」
だが龍ヶ崎は納得がいかない。
「なぜわざわざ、こんな回りくどいマネをする?」
「おまえはねとりたちを傷つけた。それをすんなり許せるほど、俺は人間ができちゃいない」
たかしの目には、しっかりとした怒りが宿っていた。
「これはその報いだ。
いつくるかわからない攻撃に怯えながら、きっちり不来方に殴られるんだな。
不来方も、仲間を傷つけてしまう苦しさを、その身をもって知るといい」
そう言い残してたかしは、獅子王たちとともにその場を立ち去っていった。




