第64話「咆哮×殺陣」
たかしのピンチに駆けつけた人物。
それは獅子王タカヒロだった。
「……どうして?」
「いや、買い物帰りに見えたから、ついな」そう言ってコンビニ袋を見せてくる。
「そうじゃなくて。なんで助けたんだよ?」
「アンタのことは気に入らねえ。
けど、男二人でパコを痛めつけてるコイツらのことは、もっと気に入らねえ」
蹴り飛ばされた龍ヶ崎が立ちあがる。
「……元イマジネ使いだな」
その言葉に不来方も、獅子王を睨み付けた。
「キミが例の問題児か……」
「将棋野郎とアメフト兄ちゃん、アンタら、揃って優秀なんだってな?」
獅子王は余裕の表情を見せる。
「けどな、ケンカにはケンカの作法があるんだぜ?」
膝をついていたたかしも、ようやく体勢を立て直す。
たかし・獅子王組と、龍ヶ崎・不来方組の、二対二で対峙する形になった。
数の上では二対二だが、こっちのイマジネは全員封じられたまま。
不利なことに変わりはない。しかも一人は手負いでボロボロだ。
たかしの不安な心境を察したのか、獅子王は顔をしかめる。
「ちょっとやられたくらいでビビりすぎ。どうせこの程度の妄想、腐るほどしてきたんだろ?」
「なんでそれを……?」
「パコから、たまにもらうメールに書いてあった。年中妄想してるクズみたいな野郎だ、って」
「……間違いない」
「けど、こうも書いてあったぜ。やる時はやる男だ、って。
そりゃそうだ、オレを倒すくらいの男なんだからな」
その言葉にたかしの視界がすっと開ける。
ねとりたちに視線をやると、全員がしっかりと頷いてくれた。
そうだ、自分が自分を信じなくてどうするのだ。
おいおい、完全にバトル物の主人公だな。たかしは両手で頬をパンと張ると、頭をフル回転させる。
強敵との戦いなんて、ずっと妄想してきたはずだ。
絶対攻撃に絶対防御。そんな絶望的な状況で相手をいかに倒すか。
龍ヶ崎はこっちの作戦を確実に読む。そもそも頭の作りが違う。
付け焼刃で、相手の思考を超えることは不可能だろう。だとすれば……。
『ケンカにはケンカの作法がある』
たかしは、はっと気づく。そうだ、これはケンカなのだ。いわばなんでもありの世界。
今までは、一人でどうにかしようとしていた。だが獅子王が来て状況は大きく変わった。
これだけはいくら龍ヶ崎でも読めなかったはずだ。
そう、奴だって万能ではない。読めないことはいくらでもある。
すると、すべてが繋がった。思考が読まれても、最強の能力を持たれても、勝つ方法はある。
だが、それだけではダメだ。ただ勝つだけでは、たかしの気が済まない。
法家やパコを傷つけたことに対する償いがなければ、真の意味での勝利にはならない。
何かないのか。奴らを後悔される、いい方法が……。
と、応援し続けるオーウェンと、浮かせた駒を手で遊ばせている御絶の姿を見て思いついた。
彼らに対抗する方法を。今まで得た、すべての経験でぶつかれば不可能ではない。
最強であるが故に、彼らは最大の欠陥を抱えているのだ。
それはまるで、最強の矛と盾にまつわる故事のように。
たかしは思いついたことを、ぼそぼそと獅子王に伝える。
「……それマジ?」
獅子王は一瞬きょとんとしたが、やがて覚悟を決めたように前を見据えた。
その様子を見て、龍ヶ崎が唇の端を歪ませる。
「何か思いついたようだな」
「おまえには関係ない」
たかしは一旦気合を入れなおす。
「ちょっと借りるぞ」
獅子王の持っていた袋からスポーツドリンクを取り出し、一口含んだ。
口の中の血をゆすぐと、ペッと吐いて、そのままドリンクを袋に戻す。
一度やってみたかったのだ。戦いのさなか、血反吐を吐くボクサーみたいなやつを。
「よーし、それじゃ」
たかしの声に、獅子王も呼応する。
「いっちょいくか」
戦いの第二ラウンドが始まった。




