第53話「死闘の果て」
「じゃあ私も帰ります」
犬神も大人しくノーパソを閉じる。
「そういえば……一言、お礼を言うのを忘れていました」
「なんの?」
「あれから私、勇気を出して、お嬢様に声をかけたんです。
当然、法家の力の影響で、私のことは覚えていませんでした。
けど、私の中で壁はなくなっていたせいか、どうやら普通のお友達にはなれそうです」
その言葉に法家が喜ぶ。「本当ですか! 良かったですね!」
「おかげで楽しい毎日を送らせてもらっています。恋人関係でないのが不満ですが」
「そっか……じゃあ、おまえも頑張れよ。運命の相手とな」
「あまり法家に変な格好させないでくださいね」
そう言って犬神は立ち去る。
広々とした会場には、たかしとそのイマジネだけが取り残された。
「やれやれ」隅田の口癖が移ったのか、つい呟いてしまう。「しっかし、まさかこんないい勝負になるとはな」
「全然ダメじゃない、ゲロ以下よ」インリがケチをつける。
ねとりも呆れた目をしている。「そもそも、カップの定義を知らないとか、なんなの?」
「知らねえよ! ブラつけたことねえから知らねえよ!
知ってるなら、教えてくれればよかったじゃねえかよ!」
「ま、まあ、僕もカップのことなんて知らなかったですし」
仲を取り持とうとする法家に、パコがいじわるな笑みを浮かべた。
「まあ法家君は、これから自分のカップも知っておかないとね」
「なんでですか!?」
ワイワイと騒ぐイマジネたちを見て、たかしはようやく一息つく。
ここまで頭を使う勝負は初めてだったので、さすがに疲れた。
何重にも策は練ったつもりだったが、漫画みたいに、そう簡単には勝てないか。
軽く背骨を伸ばし、大きく息を吐いていると、ふと玄関の方から視線を感じた。
誰か戻ってきたのかと思ったが、何やら様子が違う。
まるでこちらを見張っているような、冷たい視線がビンビンと感じられた。
「そういえばさ――」
と会話をする振りをしたと同時に、入り口に向かって走る。
すると影も、物陰から飛び出すように逃げ出す。
「待て待て!」
と追いかけても、待ってくれるはずもなく、人影は足音と共に姿を消していってしまった。
だが、わずかに見えた後ろ姿。
あれはおそらく、この学校の女子生徒だ。
「誰かいたの?」
ねとりの問いに答えようとして、現場に残された手がかりに気づく。
「この匂い……間違いない。鬼姫だ」
「なんでわかるの?」とパコ。
「俺は女子生徒全員のシャンプーの匂いがわかるから」
「キモっ!」
続いて、インリが首をかしげる。
「ひにゅー? でもその子、何しに来たのー? 騒いでたから見張りに来たとかー?」
「監視でもされているんじゃない? 風紀を乱すな! って」とねとり。
確かに、副会長に呼ばれたり、たかしに不審な動きが多いから、探っていたのだろうか。
「これで男女交際禁止とかになったら、嫌だなあ」
「……僕、思ったんですけど」
スカート姿の法家が恐る恐る口を開いた。
「鬼姫さん……実は、主人公同盟のこと知ってるんじゃないですかね?」
「なんでそう思うんだ?」
「ほら、以前、僕の活動に期待しているって言ってたじゃないですか。よく考えれば、あの部活に期待するというのも、おかしな話だと思いまして……。もしかしたら彼女、僕がたかしさんを倒すことに期待していたのかもしれない。部活を探る振りをして、実はたかしさんの行動を見張ってたとか……」
「ってことは、彼女も主人公同盟の一員なのか?」
ふと思い出す。
「なあ、インリ。おまえたち、俺に警告文を残したよな? 『世良鬼姫に近づくな』っていう」
「ひにゅー? インリ、そんなの知らないよぅ」
「は!? あれ、おまえたちじゃないの?」
「インリは、ゲロシャブに力を使えっていわれただけだよぉ?
それ以外のことは、何もしてないもん!」
ということは、どういうことだ。彼女のことを探られては困る人がいるということなのか?
だが、他の連中に近づいても何も言ってこないのに、なぜ彼女の場合にだけ……。
その時、ふと気づいてしまった。隅田が言っていた、ある一言に。
『ボスがおまえを警戒している』と。
もしかして、主人公同盟のボスというのは……。




