第4話「親方ー、公衆トイレの上から女の子が!」
翌日。
たかしは恋の熱ならぬ、ただの高熱にうなされていた。
興奮しすぎて全裸で部屋で過ごしていたせいか、風邪をこじらせてしまったらしい。
「じゃあお母さんパート行くから」
「……っ……しゃーい……」
声にならぬ声で返事をする。
ドアが閉まる音がすると、完全な静寂が部屋を包み込む。
症状が軽ければ、ゲームでもしていたかもしれない。
今は動くのもだるいので、ひたすら横になるしかない。
外で遊ぶ子供の声が聞こえる。家で一人きりだと、こんなにも静かなのか。
外が明るいほど、気分が沈んでいく。
いや、こういう時こそ逆に何かのチャンスなのだ。たかしは得意の妄想を加速させる。
たとえばクラスメイトがお見舞いに来てくれて、その子は陰で好意を寄せていてくれたとか。
熱が下がらない自分を心配して、座薬を持ってきてくれるんだ。
幸いにも親は出かけている。
『あの、もしよかったら……私が入れようか?』
申し訳なく思いながらも、自分で尻だけを布団から出す。
粘膜と指先が触れるか触れないかの距離。
人類が宇宙の真理に辿りつくかのごとく、シーンがクライマックスに差し掛かる、その時だった。
「呼ばれて飛び出てじゃんじゃかじゃーん!」
布団の中から、一人の少女が飛び出してきた。
彼女はそのまま布団に馬乗りになると、こちらをじっと見つめてくる。
たかしは一回深く息をつくと、降ろしていたパンツを一回上げる。
そして再び妄想の世界へダイブした。
いや、座薬じゃなくて、身体を拭かれるのもいいかもしれない。
意外にたくましい筋肉にドキッとされるのだ。
汗の匂いはフェロモンとも言うし、うまくいけば、そのまま互いの汗が絡み合って――
「ちょいちょいちょい! 無視かい!」
「すいません、大声は頭に響くんでやめてください」
「あっ、そうッスね。これまた失礼……じゃなくて!」
その少女は仁王立ちになって、こちらを見下ろす。
「もっとリアクションあるでしょ? 『うわあああ、だ、誰だ、おまえっ!』とか『こんな美少女がなぜ俺のところに!?』とか『やれやれ幻覚か、僕の頭はとうとうここまでおかしくなってしまったようだ』とか言えよー!」
ウザい。果てしなくウザい。たかしは少女を睨みつける。
「あの、幻覚じゃなくて紛れもなく現実なのはわかったんで、今日のところはお帰りください」
「冷静!?」
少女はようやく仁王立ちをやめ、ベッドの脇に腰かけてきた。
「あのね、そろそろ妄想に逃げるのやめなさい? モテない今の状況を打開したいんでしょ? あたしがいいこと教えてあげるから」
突然女の子が現れるなんて、どこのライトノベルだ。
ため息と共に言葉が出る。
「すいません、熱上がりそうなんで、話の前に氷持ってきてくれませんか……」