第32話「罵りはご褒美」
その人物は驚いたようにたかしを見つめた。
返事がないのが正解か。
「どういうこと?」
めもりが首をかしげる。
「ゲロシャブ、おかしくなっちゃったの?」「頭打った?(元からおかしいけど)」
よくわからないといったインリとパコに、たかしは解説する。
「逆だったんだ」
「逆?」
「俺は、ずっとイマジネ使いと戦っていると思っていた。
それがそもそもの間違いだったんだ。そうだろ?」
たかしは目の前にいるパソコン女――
犬神に話しかけた。
「犬神杏。こいつが真のイマジネ使いだ」
ねとりが目を白黒させている。
「は!? じゃあ、あの子は?」
そう言って法家を指差す。
「法家こそがイマジネだったんだよ」
「な、なんだってー!?」
二人のやりとりにインリが異を唱える。
「ひにゅー? でもおかしくない?
あの子の姿、ここにいる全員が見えてるんだよー?
イマジネって、普通の人には見えないんじゃあ……」
「それがすでにこいつの能力なんだろう」
たかしは推論を口にする。
「おそらく犬神は、何らかの力を使って、法家の存在を全生徒に認識させたんだ。
校内のほとんどの人間が、すでに能力をかけられているのかもしれない。
まあ詳しいことは、パコを使って聞いてもいいけど」
「……よくわかりましたね」
一瞬、法家の姿がスッ消えた。
途端に会場にいたあそ部の連中も、抜け殻のように崩れ落ちる。
そして再び、今度は一人の法家が目の前に現れる。
「僕の能力は、世界構築。
独自に作り出したルールを、相手に適用させる力を持っているんです。
校内の人たちには『僕を他の人間と同じように扱う』というルールを設定させていました」
法家は不思議そうな顔をする。
「けど、なんで僕がイマジネだとわかったんですか?
目立った行動は取ってないはずなのに」
たかしはひとつずつ種明かしをした。
「まず不審に思ったのが、法家が俺のイマジネを追い出した時だ。
最初は、連中の誰かに指示を出したんじゃないかと疑っていた。
あいつらに視線をやった途端にイマジネを弾かれたからな。
けどあの中にイマジネはいなかった」
「うん、全員人間だった」とねとり。
「そこでさらに深く考えた。なぜ俺のイマジネを追いだす必要があったのだと。
あれはきっと同じ手を食らいたくなかったんだろう。
法家を捕まえる寸前までいったからこそ、イマジネは追い出された。
つまり、俺たちは追いつめていたんだ、本物の法家を」
「けど、実際は捕まえられなかったよね」
「ああ、だから一瞬、あれも偽物なのかと思った。けど逆に考えてみたんだ。
実際は本物なのに捕まえられなかったのだとしたら、
法家は俺が触れられない相手なのだとしたら。
人間が捕まえられないのだとしたら、相手はイマジネしかない。
つまり、法家はイマジネなんじゃないかと思ったわけだ」
パコが口を挟む。
「じゃあイマジネ使いの正体に気づいたのは?」
「最初は朱鷺を疑った。法家とともにあそ部を創設したって言ってたからな。
けど、犬神の発言でスキが見えた」
犬神が眉をしかめる。「私、何か言いました?」
「パコとインリの力を使って法家を追いつめた時に、あんた言ったんだ。
『そんな力では捕まえられない』って。
なんで俺がイマジネを使ったってわかったんだ?
普通の人間には、俺が偽物を捕まえようとしただけにしか見えないはずなのに。
事実、他の奴らは、『もっと走れとか』『それは偽物だ』とか、そんなことしか言わなかった」
「……なるほど。よくそんなヤジ覚えてましたね」
「罵りはご褒美なんでね」




