第29話「ま、まだあわわわわわてるような時間じゃ」
目の前に広がるのはシンプルな広場。
床も壁も真っ白に染まっていて、どこか非現実的な空間が演出されていた。
その中心に法家はいた。たかしの姿を見て、途端に慌てだす。
「部長! ここまで来れないって言ってたのに、話が違うじゃないですかあ……」
「こうなったらとことん逃げのびなさい!」
朱鷺の檄が飛ぶ。
「アッキー、ガンバレー」「けっぱれー」「気合いです! 気合い!」思い思いの声援が飛ぶ。
「最終関門『ホワイトシャドウ』ですわ!」
朱鷺の言葉を合図に、辺りは静寂に包まれた。
こっちに一切声援はないが、確実に追いつめた。あとは捕まえるだけだ。
気合いを入れて、一歩足を進めた瞬間。
カタカタっとキーボードを叩く音が響いた。すると突然周囲の景色が歪み始める。
やがて、ターンっという音とともに、目の前に信じられない光景が広がっていた。
「……おいおい」
法家の姿が五人に増えていたのだ。
「これが……奴のイマジネ?」
だがその考えは一瞬で否定された。
「どうです? 最新式の立体映像は?」
犬神がくいっとメガネを上げる。
「立体映像?」
五人いる法家の中の一人が、すたすたと目の前にやってきた。
おそるおそる手を伸ばしてみると、たかしの手はするりとすり抜けていく。
「マジかよ……」
「この立体映像は、アンちゃんの自信作だもんねー」
「本物と見分けがつかないよー」
佐知、美知による解説。
「本番はこれから」
犬神がもう一度キーを叩く。
すると法家の分身はさらに数を増やして、そこら中を動きまわり始めた。
「ええええ、どうしよう」とねとりの悲鳴。
こうなると、どれが本物か完全にわからない。
「ま、まだ慌てるような時間じゃない」
そうだ、こういう時は分身物の定番、影を見ればいい。
「分身であれば影がないはず――」
「ふえぇ、どれも影あるよぉ」とインリ。
「ええ!? じゃあ適当に一人を追いかける!」
たかしは、すばしっこく逃げる一人をなんとか追いつめ、捕まえるも――
ハズレ!
「じゃあもう一人!」
だがそれもハズレ!
じゃあハズした奴を除外しようとしも、
相手が動き回るせいで定期的にシャッフルされてしまう。
「残り時間十分ですわ!」
朱鷺の勝ち誇った声が響く。




