第25話「ぼ、僕は普通の男の子ですぅ!」
男はキョロキョロ周りを確認しながら、校舎の奥の奥へと向かう。
日差しに照らされたホコリが舞うような、幻想的な雰囲気。
進むにつれ、人の気配は完全になくなってきた。
「学校にこんな静かな場所あるんだね。学園七不思議とかに出てきそう」
興味深げなねとりに、インリがそっと腕にしがみつく。
「ひにゅー、なんかコワいよぅ」
一方、男はそのまま一番端にある、家庭科準備室に入っていった。
こんな辺境の教室に何の用があるというのだろう。
静寂の中、耳をすますと、バタバタとした音と、男女のハァハァという息遣いがする。
パコがおもむろにケータイをいじりだした。
「そういえば、この辺は便利だって獅子王が言ってた」
「便利って?」
「いや、ほら……なんていうか……(異性と会うのにちょうどいいとか)」
口を濁すパコに、たかしはニヤニヤと質問してしまう。
「パコってさ、そういう時どうしてたの? 一緒に混ざってたとか?
声だけ聞いて、一人で楽しんでたとか?」
「なっ! バカ!(死ねばいいのに!)」
パコは顔を真っ赤にしてケータイを投げつけてきた。
「痛い! 向こうにバレるバレる!」
「誰だ!?」
と、騒ぎを聞きつけたのか、おもむろにドアが開いた。
男はこちらを見てハッとした表情をする。
「キミは……」
「俺のこと知ってるんですか?」
「し、知らないですよ! 皆さんが、ぞろぞろと来たから驚いただけで」
「皆さん?」
言った後で男はしまったという顔をした。
たかしの周りには、ねとりたちしかいない。
それが見えるということは……こいつ、やはりイマジネ使いか。
「あんた、八木沼を誘ったそうだな?
俺のことも知ってるらしいし、いったい何が目的で」
話を聞きだそうとしたところで、教室の中から別の人たちが出てきた。
「アキラ、いったい何事ですの?」
やたら高飛車な態度のカール髪の娘。
こんな話し方するやつが現実にいたのか。
「うんやー、入部希望?」「入るの? 入るの?」
ピンク髪の双子が、こっちをジロジロ見てくる。
「よっしゃー。やりぃ! 後輩が増えるぅ!」
男っぽいショートカットの女の子が飛び跳ねていた。
その奥では眼鏡をかけた女が、カタカタとノートパソコンをいじる。
「横溝たかし。身長一八五センチ、体重七〇キロ。クラスは1のA。
交友関係は狭い。最近、不穏な動きが多いため、生徒会からも目を付けられているようですね」
気が付くと、いつの間にか五人くらいの女子に囲まれていた。
なんだ、この奇特な集団は。
「失礼、紹介が遅れました。ワタクシが部長の朱鷺乙女ですの!」
カール髪の朱鷺を筆頭に、連中は勝手に自己紹介を始めてくれた。
「間宵佐知!」「美知だよー!」と双子姉妹。
「ボクは網走玲、りょーちんって呼んでください」
元気娘に続いて、眼鏡女がパソコンを叩きながら一言。
「犬神杏」
最後に男がポリポリと頬を掻く。
「見習い部員の法家明です」
「遊びに優しく、ルールに厳しく。我らそろって――」
朱鷺の掛け声とともに、五人は戦隊的な決めポーズをとった。
「あそ部!」
法家が恥ずかしそうに言う。
「ねえ部長、いい加減このポーズやめません?」
「何を言いますのアキラ! 結束力を高めるのには必要なのですのよ!」
「とほほ」
盛り上がる連中をよそに、たかしたちは若干引いていた。
部ってことは、とりあえず部活なのか? 素直に質問をぶつける。
「とりあえず、何する部なんだ?」
「その名のとおり」「遊ぶんだよー」
佐知、美知の双子姉妹は息のあった回答を見せる。
「それって部活か?」
「で、で、入部希望者なの?」と網走、いや、りょーちん。
すると、ずっとこっちを見ていた朱鷺がキッパリ告げる。
「却下ですわ!」
「何が!?」
「この部は特別な繋がりを持っていないと入れない決まり!
ただの暑苦しい殿方など許せませんわ」
「おいおい、意味深だな。特別な繋がりってなんだよ?」
「そ、それは……」
たかしの質問に、朱鷺がもじもじしながら答える。
「実はワタクシ……異世界では、魔王をしていたのですわ」
「は?」
「間宵佐知、美知。網走玲、犬神杏は、その時のワタクシの部下。
そこへ勇者として、魔王城にやってきたのですが、アキラだったんですわ。
その後、ひょんなことから、こちらの世界にやってくることになったのですが……
と、とにかく、この部は特別な才能がなければ、入れないのです!」
「魔王……じゃなかった、こっちでは部長、そんなこと言わないでくださいよ」
法家が朱鷺をなだめている。
「僕もそろそろ部の見習いを卒業したいんですから。
そもそも他のみんなはともかく、僕にだって特別な才能はないじゃないですか」
「貴方は……その、ワタクシの初めての……」
「初めての?」
「……と、とにかく!
ここは、貴方とワタクシの二人で立ち上げた部活なのですから!
四の五の言うんじゃありません!」
佐知、美知が口を挟む。
「ぷー、始まったよ。トキっちのもじもじモード」
「アッキーは、トキっちの特にお気に入りだもんねえ」
「へっ? どういうことですか?」
法家の肩をりょーちんがパンパンと叩く。
「いいんだよ。アッキーには特別な才能があるんだから」
「ぼ、僕は普通の男子ですぅ!」
……どうもこの連中は調子が狂う。
だがあきらめてはいけない。
「とにかく法家さんだっけ? 話があるんだ。
あんたが入っている、主人公同盟について」
「そ、それは……」
法家はもごもごしている。そこにまたしても朱鷺が割り込んできた。
「ちょっとお待ちになさって!
うちの部員に、どうしても聞きたいことがあるというなら、ひとつ勝負をしましょう」
「なんかおかしなことになってきたね」とねとり。
「ねえー、そろそろ飽きたー」「帰りたい(帰りたい)」
インリとパコの不満は耳に入らず、朱鷺は一人で盛り上がる。
「お互いのプライドをかけた、真剣遊戯ですわ!」




