裏返り 1
「……ありがとう」
「え、何です?」
倒れた子供たちを魔法で浮かせて運んでいる。
「お前なら本当は殺せたんだろ、全員」
「……まあそうですね。欠伸が出るほど簡単に」
「でも、それをしなかっただろ? だからありがとうなんだ」
そして子供を見る坂波の表情は、親が子を見るように優しいものだった。
「……私たちは手遅れだが、この子たちはまだやり直す機会が欲しい。あくまで大人に利用されただけの事で罪にするのは可哀想だからね。全て、私が償うつもりだ」
「でも、人を殺すことに快感を持った子供はどうするんですか?」
「……」
「分かっているはずです。何かしらの快感は人をダメにする。子供なら特に。何よりの彼らは普通の子供ではないから普通の大人が育てることはできないです」
「……なら、更生できない子供は私の手で終わらせるだけだ」
握られたナイフの強く握る音。そんな彼女に僕はため息を吐き、「実は…」と考えていたことを話す。
「……お前が面倒を見るってことなのか?」
「実際は僕の部下がです。……そりゃいくら闇社会いても、まさか本物の魔物にあったことはないでしょうからねー」
「マオ、凄く顔が怖いぞ……」
笑っているのだが、どうも警戒されたので気を取り直す。
「……少なくともまた魔法関係の問題が起きたとして、僕やユウカの方で見るなら、少なくとも魔法で遅れは取りませんし、構成しているメンバーが一応『戦上がり』ですから」
「あまりいい響きではないのだが」
「それ以外なら本当に殺すしかないですよ?」
「……いや、むしろありがたい。……本当に」
これでひとまず、目の前の事案が解決した。ただこれ、ルシーが小言言いそうで嫌だなー、と思ってしまった。
「……そん、な」
と、そこで後方から声が響く。
僕には覚えがなかったが、その声を聞いた途端、坂波は振り返っていた。
「コハク!」
つられて振り返ると、そこには色を失ったような白と、赤い瞳の少女が立っていた。杖を両手に握りしめて。